キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。
新垣ゆり、お前じゃないんだぞ。
勘違いするな。
恵まれているのは、お前じゃなくて、美樹のほうだ。
お前は惨めないじめられっこだろ。
自分の心の中に轟くのは、誰かからの暗示。私が作り出した、悪魔のようなものだ。
「ゆり」
耳の中に優しく響いたのは、暗闇のなかにぽつりと光が湧いたような、そんな声だった。
顔をあげると、目の前に隼人くんの手があった。その上には五百円玉ほどの大きさをしたコイン。
「見てて」
隼人くんが両方の手を前にだし、コインを交互に、移動させていく。何度かそれを繰り返したあと「どっちにあると思う?」と聞かれ、目で追っていた私から見て、右の手を指した。間違いなく右手にコインは移動していた。
その答えにニヤっとした隼人くんが「ぶっぶー」と、無邪気に笑って両方の手を開いた。コインは、どちらの手にもなかった。
「なんで……⁉︎」
「へっへへ」
「絶対に右だと思ったのに……」
そんなに高速でコインを右と左に行き来させていたわけでもないのに、見失うわけない。しかも、両方の手にないなんて、どんな仕掛けを使ったの?
そしてまた両手を差し出した彼が「右ね」と言い、右手で拳を作ってその手の親指と人差し指でできた隙間に勢いよく息を吐き入れた。
右手をゆっくり解くと、その手のひらに、先ほどはなかったコインが現れた。
……もう、わけがわからない。
「すごい……」
吐息と一緒にもれた言葉。感動。同じ人間のなせる技とは思えない。私が特訓したところで、できるようになるとは思えない。