キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。


「最初から死にたかったわけじゃないでしょ?」

「……うん」

「でも逃げててもダメだってわかったんだ。最後の瞬間まで笑っててもらいたい。子供たちにも、……ゆりにも。……さ、食べよ?冷えちゃうよ」



ぱくっと、カレーを頬張って、隼人くんが「美味しい」って言う。



「……私もだよ、隼人くん」

「え?」

「隼人くんには笑っててほしいな。いつまでも」



その、変わらない笑顔で。
周りを穏やかにさせてくれる、その陽だまりの笑顔。
その笑顔があれば、間違いなく世界は優しい光に包まれるから。


驚いた様子の隼人くんに笑いかけて、カツを一口食べる。ルーが染みて柔らかくなっている。お肉も柔らかくて美味しい。ルーの辛さが絶妙。



「美味しいね」

「……うん。美味しい」



ただ、こうして美味しいものを食べる。それだけでとてつもなく幸せを感じる。
目の前に隼人くんがいる。笑っている。美味しそうにカレーを食べている姿が可愛い。


あと一ヶ月半のなかで、笑って生きることはもう、隼人くんがそばにいれば容易な気がする。


死にゆくまで、あと、四十四日。


あとどれだけ笑い合えるだろう?

どれだけ思い出をつくれるかな?


あと何回、きみの笑顔に会えるのかな。


考えてしまうと、ちょっぴり切なくなる。何度でも会いたくなる。そんな中毒性が彼にはある。


その笑顔の先に自分がいることの幸せに、心じんわりと発熱した。


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