キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。
足を踏み入れる前に、教室の中を恐る恐る覗き込んだ。心臓が、痛いぐらいに動いている。マンションの屋上から飛び降りて、止まるはずだった心臓だ。今感じているものは、偽りの感覚かもしれないけれど。
ちらほらといるクラスメイトはみんな笑ってそれぞれ仲の良い人たちと談笑をしている。どうやって教室のなかに行けばいいのかわからない。自分の席もわからないし。
「美樹、おはようっ!」
「……⁉︎」
廊下で小さく肩をすぼめて佇んでいると、飛びつくように話しかけてきたひとりの女の子。驚いて身体が跳ねたが、声は出せなかった。
見覚えがある。たしかこの子は日記のプリクラに写っていた女の子だ。名前は確か……理香子ちゃん、だっけ。
「どうかした?」
「えっ、ううん……っ」
「行こ?」
「うん……っ」
手を引かれて、席までたどり着く。私の席は、窓際の一番後ろから二番目だった。その道のりでクラスメイトたちに挨拶をされ、私は慣れない挨拶をたくさんした。
いじめられていた私に、「おはよう」なんて声をかけてくれる人はいなかったから。
ちゃんとできているか、わからない。混乱して、息がまともにできない。目も、ぐるぐるまわってきた。
席に着いてすぐ、かばんを机の上に置いた。
「ごめん、ちょっと、トイレ……っ」
そして私はその場から逃げるように教室を出た。
情けない。ただ、挨拶をしてくれただけなのに。それに対応しきれない自分のメンタルに、絶望感しかない。
普通のことが、難しい。悪意のなかにずっと晒されてきたから。