Hold me 副社長の瞳と彼女の嘘
「俺とのキス……嫌?」

(嫌じゃ……ない。時折みせる本当のこの人を……もっと……)

「嫌……じゃないです」

その友梨佳の返事に、始はゆっくりとまた顔を近づくけると、友梨佳の耳元に唇を寄せた。
「なあ、キスの相性も良さそうだし、お互い結婚願望もない。俺と契約しない?お互いの都合のいい時の大人の関係」
怪しさと色気さえも含む、その低い声に、友梨佳はピクっと身体が跳ねた。

「そんなこと……私……」
「一生恋愛も結婚もしないんだろ?でも寂しい時もあるだろ?」
そう言った始の瞳は、なぜか真剣な表情に見えて友梨佳は自分の最近の気持ちがわからず戸惑った。
そんな友梨佳の気持ちに追い打ちを立てるように、始はチュと音を立てて友梨佳の首筋にキスを落とすと、もう一度真っすぐに友梨佳を見つめた。


「……します」
「契約成立な友梨佳。俺の事は始でいい」
その言葉に、友梨佳はドクンと大きく自分の心臓が鳴った気がした。

遥か昔に置いてきたこの感情は、ただの欲求だと友梨佳は自分に言い聞かせた。

(私は人を愛せないし、愛すことはない。ならば契約のこの関係は都合がいいよね……)

「とりあえず今日は帰ります。遅いし疲れました」
「そうだな。また連絡する。お前もしたくなったら連絡して。いつでもどんな用事でもいいから」
少し優しい微笑みを見せた始に驚いて友梨佳は「え?」と声を上げた。

「契約はお互いが必要とした時に呼ぶ事」

(必要な時って……?)


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