Hold me 副社長の瞳と彼女の嘘
そんな中、仕事帰りに駅から家へと歩いていると、携帯電話の着信に、友梨佳はディスプレイの名前を見て動きを止めた。

【お母さん】

久しぶりにかかってきた電話に胸騒ぎがした。
父と離婚した方がいいとずっと言い続けてきて、ようやく離婚をしたのが3年前。
二人でずっと苦労してきたせいか、友梨佳は母を大切にしていた。
女二人、これからは母を養って生きていく。そんなことすら友梨佳は思いながら仕事に没頭していた。

今度は病にでもなった……そんな事が頭をよぎり友梨佳は慌ててディスプレイをタッチした。

「もしもし。お母さん?どうした?」
気づけば矢継ぎ早に言葉を掛けていた。

『友梨佳?ごめんね。今大丈夫?』
心配をよそに明るい声の母に、友梨佳はホッとした。

「うん、大丈夫だよ」

『あのね……』
少し歯切れの悪い母の言葉に、友梨佳は「どうしたの?」と優しく声をかけた。
『友梨佳、今月にでも仕事早く上がれる日ある?会って食事でもしたいんだけど』
「え?こっちに来るの?」
友梨佳の母は離婚してから、都心から1時間半ほどの所に一人暮らしをしている。

『うん、行くから一緒に夕ご飯でもどう?』
その誘いに、友梨佳はスケジュールを確認すると、
「いいよ。もちろん。美味しい物食べよう」
『そうね』
母と約束をすると、母と会えるのが楽しみになり、電話を切ると家へと急いだ。

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