Hold me 副社長の瞳と彼女の嘘
どうして今日ここに呼ばれたかを友梨佳はすでに理解した。

くるりと踵をかえして、友梨佳は化粧室へと逃げ込んだ。

ジッと洗面台で俯き、心を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
母には幸せになってもらいたい。常日頃そう思ってきた。でも……。
母はもう二度と恋愛も男の人もいいわ。それが口癖だった。
そんな母を見てきたからこそ、友梨佳は男を信用することもなく、だれも好きにならない。どうせ裏切られる。そう思って生きてきた。

しかし……。さっきの幸せそうな母の顔を見て友梨佳は混乱した。

(いつまでもこんなところにいても仕方がない。待たせる訳にもいかないよね)
大きく息を吐くと、友梨佳は母の元へと向かった。

「お母さん」
冷静に微笑みながら言うと、慌てたように隣にいた男性が席を立った。

「友梨佳!」
少し心配そうな顔をこちらに向けた母に、友梨佳はなにもいう事ができず、隣にいた男性に目を向けた。
「はじめまして。友梨佳さん。近藤勇といいます」
「初めまして」
友梨佳は頭を下げると、二人の前の席に座った。

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