Hold me 副社長の瞳と彼女の嘘
「あのね……友梨佳」
今までの事があるせいだろう、母は言いづらそうに言葉を止めた。

「わかってる。お付き合いしてるんでしょ?」
フワリと笑って言った友梨佳に、母はホッとしたような表情を見せた。

「そうなの。今度結婚しようと思って」
「結婚?」
さすがにこの言葉に友梨佳は驚いて、言葉を止めた。

「あ……あのね」
そんな母を制するように、近藤が友梨佳を見た。
「友梨佳さん、友梨佳さんの心配もよくわかるんだ。お母さんの過去は聞いているし。私は妻に10年前に先立たれて、生きる希望を失っていたんだ。でも……お母さんに出会ってもう一度人生をやり直してみようって思えたんだ。許してもらえないだろうか?」

友梨佳はギュッとテーブルの下で、手を握りしめた。
「母をよろしくお願いします」
そんな動揺を隠すように、笑顔を向けた友梨佳に二人は安堵の表情を浮かべた。
そこから和やかに食事を済ませて、友梨佳は仕事のポーカーフェイスがこんなところで役にたつなんて。
そんな事を思いながら、友梨佳はコーヒーに手を伸ばした。
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