蝉時雨
 すべてが替われば面白い。君が私に協力してくれるなら、願いを叶えて差し上げよう。

 魔法使いは手を出していた。

 雨は、そもそも思考は単純だ。可能不可能は二の次、結果の後につける今後の方針。

 降っていた。ならどこまでも降っていたい。

 三億と五千年降った。駄目だった。なら諦めてOY。

 でも、またできる。

 ならやる。話は簡単だった。





 ぽつり。雨が溶ける。


 ポツリ。雨が融ける。


 大地は赤く剥げ草を根こ削ぎ大樹を腐らせた。飲み込み続けた海は黒く変色し、大地を焦がしやがて自ら乾いた。雲の中に雷を飼い高い遮蔽物を砕き惑う人間に落とした。凌ぎを無くした動物たちは骨にしてゆっくりしゃぶった。



 絶好調だね。344499222338888。



 何を言っているのかわからない。魔法使いは怪しげな言語を使う。

 だがもはや関係ない。

 どこまでも行けるのならば関係ない。このまま最後などない、永遠に続く堕落へと。



 いくつも穿たれた大地、焦げていく地表、大きな穴は反対まで続く深遠、逃げ惑う生命には死の宣告、地獄絵図にもできない凄惨な現実、魔法使いは大きく息を吸った。据えた匂い、毒の空気、だが死に至ることはない。やはりと思いながら、ここまで見てきた世界を思う。



 歯車を狂わせた少年

 夏を支配する蝉

 人形に飼われた娘

 少女を失った夏

 延々と降り続ける水滴

 価値観が惑った頃

 再生を繰り返す時

 末路を堪能する雨


 まったく。これだから。

 魔法使いは笑った。


      殺戮者
【344499222338888】に蹂躙される世界で。


 これぞ理不尽、これぞ不条理、その中で見せる輝き。雑音に包まれたメロディ、誰彼で奏でる協奏曲にして狂想曲なる合唱歌。

 蝉が歌い、

 時が繋ぎ、

 雨が締めた。


 ならば。
『蝉時雨』はここでピリオドだ。

 また違う世界を見に行くとしよう。それだけが娯楽だ。


 そう言って、魔法使いは蝉時雨の書を閉じた。











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