ハツコイ
第2章
芽生えた気持ち
*****
暗闇の中を車のライトが道を照らし、前へ進んで行く。
その景色が、なんだか今の自分の心境のようで…
私は瀬良先生が照らしてくれるこの道を、迷わずに進んで行っていいのかな?
この差し伸べられた手を私は取ってもいいの?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
「着いたぞ」
そう言って車のエンジンを切り、助手席のドアを開けてくれる瀬良先生。
私達は、あれから直ぐに家を出た。
部屋から出るとアイツが倒れていてビックリしたけど、瀬良先生が「ちょっと気を失ってるだけだから気にすんな」とサラッと言って、私のキャリーバッグを持ちスタスタと玄関を出て行くから、私はただ黙って後をついて行った。
本当に大丈夫なんだろうか?
なんだろう?瀬良先生のこの場馴れした感じは…
色んなことが引っ掛かったけど、瀬良先生が余りにも普通にしているから、私もだんだん気にならないようになっていった。
私の家から車で十五分くらいの所に、瀬良先生の住んでいるマンションがあった。
エレベーターに乗って五階まで行き、一番右の端にある部屋の前で瀬良先生が立ち止まる。
鍵を差し込んでから後ろに振り返り、自信が無さそうな顔で私を見た。
「…言っとくけど、単身者用だから狭いし散らかってるからな」
なんか……今の瀬良先生、可愛い///
さっきまで怖くて震えていたはずなのに…
こんな事を思えるだなんて不思議だな。
「気にしませんよ?」
「お前が気にしなくても、俺が気にする」
「じゃあ、私、ネカフェにでも泊まります」
「バカ、そんなわけにはいかねーだろ。もう、腹くくった。入れよ」
そう言って瀬良先生は、ドアを開けて玄関へ私を通してくれた。
瀬良先生の部屋は1DKで、ダイニングテーブルが無く、テレビの前に座卓が置いてあり、壁側にソファーがあるだけのシンプルな部屋だった。
そして…確かに散らかっている。
雑誌や脱ぎ捨てられた服が散乱していて、ソファーは使用不可能な状態になっていた。
「結構、散らかってますね」
「あんまジロジロ見んな///」
「彼女が居ないのが丸わかりの部屋ですね」
「うるせーな///」
瀬良先生はソファーの上の服を掻き集め、脱衣所に持って行く。
瀬良先生…本当に彼女、居ないんだ。
私はホッと胸を撫で下ろす。
ーーーん?
今、私、ホッとした?
あれ?どうしてだろ?
私が悶々としていると、ルームウェアに着替えた瀬良先生が戻ってきた。
グレーのパーカーに黒のラフなパンツ姿の瀬良先生は新鮮で、私はなんだかさっきから変に緊張している。
「お前、腹減ってねぇ?」
「…減ってません」
「マジで?俺、すげー腹ペコなんだけど。流石に生徒のお前と外に食いに行くわけには行かねーし…」
「私は家にいるので、瀬良先生は食べて来てください」
「は?何言ってんの?飯は一緒に食うもんなんだよ」
「ちょっと待ってろ」とニカッと笑った瀬良先生は、スマホを持って廊下へ行き誰かと話し出した。
『飯は一緒に食うもんなんだよ』
そう言われて涙が出そうになった。
長い間、私は誰かと食事なんてしてない。
実の母親とだって…
「どうした?」
話し終わった瀬良先生が戻って来て、私の顔を覗き込んだ。
「何でもないです」
「そ?なんか泣きそーに見えるけど?胸、貸そうか?」
両手を広げて受け入れ態勢を作った瀬良先生。
「い、要りませんっ///」
な、何なのっ///
どうしていいのか分からなくて、涙なんて引っ込んじゃったよっ///
お、落ち着かなきゃっ。
「チャラ男の胸は借りません」
「プハッ、やっぱお前、面白いな」
「何がですかっ///」
「いいじゃん、これからもっと、そうやって本当のお前を出して行けよ」
そう言って瀬良先生は、私の頭を優しくポンポンとした。
…本当の自分。
瀬良先生は私の事、分かってくれてるんだ…
実の母親は気付いてないのに。
そう思うと、複雑な気持ちになるけど、一人でも私の事を見てくれていることに対して嬉しくもなる。
「……///」
「なに照れてんの?かーわいー」
「もうっ!そういうことろがチャラいんですよっ///」
瀬良先生のチャラさのおかげで、少しずつ緊張がほぐれて落ち着いてきた頃、
ピンポーン…とインターホンが鳴った。
「お、やっと来たか」
そう言って、瀬良先生は玄関へ向かった。
誰か呼んでいたのかな?
私みたいなのがいきなり居たらビックリするだろうし、迷惑じゃないのかな?
そう思い、立ち上がって瀬良先生が戻って来るのを待っていると、
「飯が来たぞー」
瀬良先生が、風呂敷に包まれたお重箱らしき物を持ち上げながら戻って来た。
その後ろには、瀬良先生より少し背が高くて眼鏡を掛けた男の人が立っている。
「紹介するよ。俺の友達で神部 龍ってんだ」
「初めまして、藤崎さん」
「は、初めまして」
なに、この人…
めちゃくちゃ綺麗な顔をしてるんだけどっ///
綺麗な黒髪に知的な眼鏡、男の人なんだけど美人って言葉がぴったりな人。
「リュウ、挨拶はその辺にして早く飯食おうぜ」
瀬良先生は余程お腹が空いていたのか、私達が挨拶をしている間に、風呂敷からお重箱を出しテーブルにひろげていた。
「本当に食べることに関しては子供のままですね、雄大は」
そう言ったリュウさんの顔はとても優しくて…
「うるせーな、ほら、藤崎も座れ。皆んなで食うぞっ」
瀬良先生は、私とリュウさんを強引に座らせてから手を合わせ「いただきます」と言った。
リュウさんも手を合わせ「いただきます」と言ったので、私も同じようにする。
「…いただきます///」
なんだか…久しぶりだから照れる。
「何、照れてんだよ。バーカ」
お箸を割りながら笑っている瀬良先生。
「照れてなんていませんっ」
「へぇ、じゃあ、なんで顔が赤いんだ?熱か?俺が看病してやろうか?」
「熱なんてないしっ、あったとしても瀬良先生の看病はいりませんっ///」
「…あははは、二人共、随分と仲が良いんですね」
私と瀬良先生のやり取りを見ていたリュウさんが、楽しそうに笑っている。
「な、仲良くなんてっ、ありませんっっ///」
「そんな、否定すんなよ。軽く傷つくじゃねーか」
「だ、だって…///」
「藤崎さんって、可愛い方なんですね」
突然、リュウさんが、甘い微笑みを私に向けて言った。
「ーーーーーっ///⁈」
「より赤くなった顔がとても可愛いです」
更に追い討ちをかけるリュウさん。
も、もうっ///
恥ずかしすぎるっ///
瀬良先生もリュウさんも女慣れしすぎなんじゃないのっ?
私は熱くなった両頬を手で押さえて冷やす。
「あんま藤崎で遊ぶなよ、リュウ」
「失礼ですね。僕は至って真剣ですよ」
「…あっそ」
「ひょっとして、ヤキモチですか?」
えっ?うそ、瀬良先生がヤキモチ?
「…バーカ。そんなんじゃねーよ。ホラ、腹減ってんだから早く飯食え」
瀬良先生が私の取り皿の上に、おかずをどんどん入れていく。
「ちょっ、そんなに食べれませんよっ」
「食え。お前は痩せすぎ。養護教諭の俺のとこに来たからには健康になってもらうぞ」
「そんなこと言われても…」
「なに?食べさせて欲しいって?」
妖艶な笑みを浮かべて、私に出し巻き玉子を差し出す瀬良先生。
「じ、自分で食べれますっ///」
「そ?残念」
なんて上目遣いで言ってから、瀬良先生は差し出していた出し巻き玉子を、自分の口に入れ食べた。
この日の夕食は、暖かくて楽しくて…そしてドキドキもする時間で…。
私が欲しかった時間を、瀬良先生は簡単に叶えてくれたんだーーー
暗闇の中を車のライトが道を照らし、前へ進んで行く。
その景色が、なんだか今の自分の心境のようで…
私は瀬良先生が照らしてくれるこの道を、迷わずに進んで行っていいのかな?
この差し伸べられた手を私は取ってもいいの?
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「着いたぞ」
そう言って車のエンジンを切り、助手席のドアを開けてくれる瀬良先生。
私達は、あれから直ぐに家を出た。
部屋から出るとアイツが倒れていてビックリしたけど、瀬良先生が「ちょっと気を失ってるだけだから気にすんな」とサラッと言って、私のキャリーバッグを持ちスタスタと玄関を出て行くから、私はただ黙って後をついて行った。
本当に大丈夫なんだろうか?
なんだろう?瀬良先生のこの場馴れした感じは…
色んなことが引っ掛かったけど、瀬良先生が余りにも普通にしているから、私もだんだん気にならないようになっていった。
私の家から車で十五分くらいの所に、瀬良先生の住んでいるマンションがあった。
エレベーターに乗って五階まで行き、一番右の端にある部屋の前で瀬良先生が立ち止まる。
鍵を差し込んでから後ろに振り返り、自信が無さそうな顔で私を見た。
「…言っとくけど、単身者用だから狭いし散らかってるからな」
なんか……今の瀬良先生、可愛い///
さっきまで怖くて震えていたはずなのに…
こんな事を思えるだなんて不思議だな。
「気にしませんよ?」
「お前が気にしなくても、俺が気にする」
「じゃあ、私、ネカフェにでも泊まります」
「バカ、そんなわけにはいかねーだろ。もう、腹くくった。入れよ」
そう言って瀬良先生は、ドアを開けて玄関へ私を通してくれた。
瀬良先生の部屋は1DKで、ダイニングテーブルが無く、テレビの前に座卓が置いてあり、壁側にソファーがあるだけのシンプルな部屋だった。
そして…確かに散らかっている。
雑誌や脱ぎ捨てられた服が散乱していて、ソファーは使用不可能な状態になっていた。
「結構、散らかってますね」
「あんまジロジロ見んな///」
「彼女が居ないのが丸わかりの部屋ですね」
「うるせーな///」
瀬良先生はソファーの上の服を掻き集め、脱衣所に持って行く。
瀬良先生…本当に彼女、居ないんだ。
私はホッと胸を撫で下ろす。
ーーーん?
今、私、ホッとした?
あれ?どうしてだろ?
私が悶々としていると、ルームウェアに着替えた瀬良先生が戻ってきた。
グレーのパーカーに黒のラフなパンツ姿の瀬良先生は新鮮で、私はなんだかさっきから変に緊張している。
「お前、腹減ってねぇ?」
「…減ってません」
「マジで?俺、すげー腹ペコなんだけど。流石に生徒のお前と外に食いに行くわけには行かねーし…」
「私は家にいるので、瀬良先生は食べて来てください」
「は?何言ってんの?飯は一緒に食うもんなんだよ」
「ちょっと待ってろ」とニカッと笑った瀬良先生は、スマホを持って廊下へ行き誰かと話し出した。
『飯は一緒に食うもんなんだよ』
そう言われて涙が出そうになった。
長い間、私は誰かと食事なんてしてない。
実の母親とだって…
「どうした?」
話し終わった瀬良先生が戻って来て、私の顔を覗き込んだ。
「何でもないです」
「そ?なんか泣きそーに見えるけど?胸、貸そうか?」
両手を広げて受け入れ態勢を作った瀬良先生。
「い、要りませんっ///」
な、何なのっ///
どうしていいのか分からなくて、涙なんて引っ込んじゃったよっ///
お、落ち着かなきゃっ。
「チャラ男の胸は借りません」
「プハッ、やっぱお前、面白いな」
「何がですかっ///」
「いいじゃん、これからもっと、そうやって本当のお前を出して行けよ」
そう言って瀬良先生は、私の頭を優しくポンポンとした。
…本当の自分。
瀬良先生は私の事、分かってくれてるんだ…
実の母親は気付いてないのに。
そう思うと、複雑な気持ちになるけど、一人でも私の事を見てくれていることに対して嬉しくもなる。
「……///」
「なに照れてんの?かーわいー」
「もうっ!そういうことろがチャラいんですよっ///」
瀬良先生のチャラさのおかげで、少しずつ緊張がほぐれて落ち着いてきた頃、
ピンポーン…とインターホンが鳴った。
「お、やっと来たか」
そう言って、瀬良先生は玄関へ向かった。
誰か呼んでいたのかな?
私みたいなのがいきなり居たらビックリするだろうし、迷惑じゃないのかな?
そう思い、立ち上がって瀬良先生が戻って来るのを待っていると、
「飯が来たぞー」
瀬良先生が、風呂敷に包まれたお重箱らしき物を持ち上げながら戻って来た。
その後ろには、瀬良先生より少し背が高くて眼鏡を掛けた男の人が立っている。
「紹介するよ。俺の友達で神部 龍ってんだ」
「初めまして、藤崎さん」
「は、初めまして」
なに、この人…
めちゃくちゃ綺麗な顔をしてるんだけどっ///
綺麗な黒髪に知的な眼鏡、男の人なんだけど美人って言葉がぴったりな人。
「リュウ、挨拶はその辺にして早く飯食おうぜ」
瀬良先生は余程お腹が空いていたのか、私達が挨拶をしている間に、風呂敷からお重箱を出しテーブルにひろげていた。
「本当に食べることに関しては子供のままですね、雄大は」
そう言ったリュウさんの顔はとても優しくて…
「うるせーな、ほら、藤崎も座れ。皆んなで食うぞっ」
瀬良先生は、私とリュウさんを強引に座らせてから手を合わせ「いただきます」と言った。
リュウさんも手を合わせ「いただきます」と言ったので、私も同じようにする。
「…いただきます///」
なんだか…久しぶりだから照れる。
「何、照れてんだよ。バーカ」
お箸を割りながら笑っている瀬良先生。
「照れてなんていませんっ」
「へぇ、じゃあ、なんで顔が赤いんだ?熱か?俺が看病してやろうか?」
「熱なんてないしっ、あったとしても瀬良先生の看病はいりませんっ///」
「…あははは、二人共、随分と仲が良いんですね」
私と瀬良先生のやり取りを見ていたリュウさんが、楽しそうに笑っている。
「な、仲良くなんてっ、ありませんっっ///」
「そんな、否定すんなよ。軽く傷つくじゃねーか」
「だ、だって…///」
「藤崎さんって、可愛い方なんですね」
突然、リュウさんが、甘い微笑みを私に向けて言った。
「ーーーーーっ///⁈」
「より赤くなった顔がとても可愛いです」
更に追い討ちをかけるリュウさん。
も、もうっ///
恥ずかしすぎるっ///
瀬良先生もリュウさんも女慣れしすぎなんじゃないのっ?
私は熱くなった両頬を手で押さえて冷やす。
「あんま藤崎で遊ぶなよ、リュウ」
「失礼ですね。僕は至って真剣ですよ」
「…あっそ」
「ひょっとして、ヤキモチですか?」
えっ?うそ、瀬良先生がヤキモチ?
「…バーカ。そんなんじゃねーよ。ホラ、腹減ってんだから早く飯食え」
瀬良先生が私の取り皿の上に、おかずをどんどん入れていく。
「ちょっ、そんなに食べれませんよっ」
「食え。お前は痩せすぎ。養護教諭の俺のとこに来たからには健康になってもらうぞ」
「そんなこと言われても…」
「なに?食べさせて欲しいって?」
妖艶な笑みを浮かべて、私に出し巻き玉子を差し出す瀬良先生。
「じ、自分で食べれますっ///」
「そ?残念」
なんて上目遣いで言ってから、瀬良先生は差し出していた出し巻き玉子を、自分の口に入れ食べた。
この日の夕食は、暖かくて楽しくて…そしてドキドキもする時間で…。
私が欲しかった時間を、瀬良先生は簡単に叶えてくれたんだーーー