ハツコイ
*****


学校に着いた私は、一人で新しい教室に向かう。

ガラッと扉を開けると、もうすでに殆んどの人がグループを作っていた。

特に親しい友達がいない私は、どこかのグループにあえて入りたいとは思っていなかったので、誰に声を掛けることもなく、黒板に張り出されている座席表を確認して、静かに自席につく。

鞄を机の横に掛け、両肘をつきながら、なぜかさっきの男のことを思い出していた。

あの人、なんであんな所で寝転んでたんだろ?

バシッとスーツで決めてるくせに、あんなところに寝転んじゃって…。

若そうだったから新入社員かなんかかな?

どちらにしても、変なヤツだし、失礼なヤツだった。

さすがに初対面で「可愛くない」って言われたのは初めてで…

そんなことはわかってるけど、やっぱりちょっと傷つくよね?一応、女の子だし?

なんて、少し感傷に浸っていたら…

「あ、藤崎さんと同じクラスなんだね。一年間よろしくね」

私の隣の席に、トンッとスポーツバックを置いて話しかけてきたのは、男バスのエース牧野くんだった。

「…よろしく」

私は出来るだけ、素っ気なく返事をする。

「なに?冷たいなぁ。藤崎さん、バスケ部のマネージャーなんだから仲良くしてよ」

「嫌です。女子の反感を買いたくないので」

そう、牧野くんは、長身の爽やかイケメンで学園のアイドル的存在。

私が男バスのマネージャーをしてるってことだけでも、結構、風当たりがきついのに、仲良くなんてしたら、睨まれたりするだけじゃ済まなくなっちゃうんだからね。

ほら、今だって軽く睨まれてるしっ。

私ってホント女子に嫌われてるんだよな…。

まぁ、別に危害を加えられなければ、一人でいる方が楽だし全然いいんだけどね。

「何言ってるのさ、男子人気No. 1の藤崎さん。いざとなれば、守ってくれる男がいるでしょ?なんなら、僕が守るけど?」

「私の静かな学校生活をお願いだから邪魔しないで下さい」

「あはは…、やっぱり藤崎さんって面白いね。とりあえず、今はお願いを聞いて引き下がるよ」

そう言って、牧野くんは後ろの席の友達と喋り始めた。

はぁ…、今すぐにでも席替えしたい。

牧野くんの隣ってだけで目立つのに、こんなに話しかけられたんじゃ、益々、風当たりがきつくなっちゃうよ。

………面倒くさいな。

男バス、辞めちゃおうかな?

でも、うちの学校は、絶対に部活に入らなければいけないことになってるし、バイトも禁止だし。

一番遅い時間まで部活をしてるのが男バスだから…やっぱりそこは外せないな。

男バスを辞めちゃうと、家にいる時間が長くなっちゃう。

そうなると、アイツといる時間も増えるってことだもんね…

それだけは、絶対に嫌だっ。

どんなに女子からの風当たりがきつくても、アイツと居るより断然マシッ。

だから、私はやっぱり男バスのマネを辞めるわけにはいかないっ。

私が新たに決心をしたとき、チャイムと共に担任の先生が入って来て、軽く自己紹介をした後、始業式のため体育館に移動するように指示を出した。

皆んなでゾロゾロと体育館に向かう。

校長先生の長い話の後、教頭によって新しく赴任してきた先生の紹介が始まった。

落ち着いた足どりで舞台に上がったその人は、マイクをポンポンと軽く叩いてから自己紹介を始める。

「えーと、今日からこの学校の養護教諭として働かせてもらう瀬良 雄大(せら ゆうだい)です」

顔を上げ名前を言った後、体育館は女子の黄色い声で支配された。

私はその声にビックリして、下を向いていた顔を上げ、舞台にいる養護教諭の顔を見て目を見開く。





………う、そ





今朝の失礼なヤツじゃん。

え?なに?ここの養護教諭なの?

舞台の上にいる瀬良先生とバチッと視線が合ってしまった。

私に気付いた瀬良先生は、こちらに向かってヒラヒラと手を振っている。

再び女子の黄色い声が体育館に鳴り響く。

なんなのっ///

あんなヤツ、無視だ、無視っ。

関わるとロクなことがない予感しかしないもんっ。

私はバッと視線を逸らし、瀬良先生を無視し続けた。




まさか、この日から、関わりたくないと思っていた瀬良先生との距離がどんどん近づいていくなんて、思ってなかったんだ……



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