ハツコイ

瀬良先生の過去

◆◆◆◆◆


高校時代の俺はどこへ行っても厄介者だった。

学校でも家でもーーー。

俺は、幼少期にシングルマザーである母親に捨てられ施設へ入った。

母親の愛情を一切受けることなく育った俺は、施設内でも上手くやっていくことが出来ず、高校入学と同時に施設を出て一人暮らしを始める。

生活費を稼ぐために、年齢を偽ってホストにでもなろうかと思ったが、女の機嫌を取ったりベタベタと触られるのが嫌だったので、夜の仕事でも俺は工事現場のアルバイトの方を選んだ。

なんとか生活が出来る程度の給料しか貰えず貧乏だったが、施設へ戻る気にはなれない。

だって…

俺は、親に捨てられた厄介者。

どこへ行ったって不要な人間だから…。

なんだか毎日がつまらなくて、イライラして、俺はケンカに明け暮れていた。

バイトをしていない時間は、寝てるかケンカをしてるかというくらいだ。

ある日、廊下をすれ違った時に肩が当たり、俺はいつものようにケンカを吹っかける。

ぶつかった相手の第一印象は「女みたいな顔をした奴」だった。

ケンカなんて全くしなさそうな奴なのに、強ぇのなんのって。

この日、初めて俺はケンカで引き分けた。

「お前、顔とのギャップがあり過ぎじゃねぇ?」

「それは僕の台詞です」

そう、これが神部龍との出会いだった。

親に捨てられた俺、実家がヤクザのリュウ、それぞれの悩みを持った俺達が仲良くなるまでに時間はかからなかった。

最強と言われた俺達に何も怖いものはないーー

はずだったんだけど………

入学した時からずっと俺達に付き纏う人物、コイツがなかなか厄介な奴だった。

名前は、豊田 万次郎(とよた まんじろう)。

生活指導の先生だ。

ジジィのくせに力が強くて、俺達は首根っこ掴まれて、よく吹っ飛ばされていた。

「またお前らこんなとこでサボってるのか?」

俺とリュウが非常階段で授業をサボっていたら、大概、ジジィが顔を出す。

「うるせぇ、ジジィ」

俺がジジィに向かって、舌を出しながら中指を立てると

「誰がジジィだっ。俺がジジィなら、お前らはクソガキだ」

必ずと言っていいほどの確率で、この台詞が返ってくる。

「うぜぇ…」

俺とリュウは「教室へ戻れ」と言うジジィを無視して学校を出て行く。

つまらない、つまらない、つまらない…

俺は何のために生まれてきたんだろう?

親に愛されることさえ無かった俺の人生。

この世に必要のない人間。

そんな俺とは反対に、親から愛され育ててもらっている甘ちゃんが、のうのうと生きている姿を見ると、無性に腹が立つ。

そう、こんな奴らを見ると…

「うわっ、ダッセー。もう金ないじゃん。金持ってそうなカモ探しにいこうぜ」

ゲーセンの前でギャーギャーと騒いでいる奴ら。

たぶん俺らと同じくらいの歳。

そいつらは早速、弱そうな奴を見つけてカツアゲを始めた。

親の金でメシ食って、親の金で遊んで、人の金にまで手を伸ばそうとする輩。

無性に腹が立った俺は、問答無用でそいつらをボコボコにする。

そして、運悪く警察が巡回していて、俺達は逃げる間も無く捕まってしまった。

マジでこの時はついてなかったな…。

みっちり説教された後、親が引き取りに来て頭を下げて皆んな帰っていく。

当然、親のいない俺は警察から解放されることはなかった。

リュウは組の若い奴が引き取りに来たので、俺が解放されるのを外で待っている。

俺ってこのまま帰れないわけ?

ヤバイな…

バイトに間に合わないじゃん…

俺が腕時計を見ながら、足をカタカタと鳴らし出すと

「失礼しますっ」

とデカイ声で挨拶をして部屋に入って来た男がいた。

「……ジジィ」

「お前っ!何やってんだ!人様に迷惑をかけてっ!」

そう言ったと同時に、ジジィは俺の頭にゲンコツを入れてきた。

「イッテーッッ!何すんだよっ、このジジィ!」

俺は頭を押さえながら、ジジィをら睨みつける。

「本当に申し訳ありませんでしたっ」

ジジィが俺を無視して、警官に深々と頭を下げた。

な、なんでジジィが頭を下げんだよっ。

お前、俺の親でも親戚でもないじゃねーかっ。

「ほらっ、お前も謝れっ」

そう言ってジジィは、俺の頭にゴツイ手を置いてグッと下げる。

ジジィは警官に何度も何度も頭を下げた。

その甲斐あってか、俺はなんとか釈放された。

この後、警察の廊下でジジィが言った言葉が俺を変える。



「卑屈になるな、お前は可哀想ではない」



俺の心に静かに突き刺さったんだ。


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