ハツコイ
*****
瀬良先生の車を降りて、私はピンク色の二階建てハイツをじっと見上げる。
二週間前、アイツから自分の身を守る為にこの家を出た。
あっという間だったな………
ママは元気にしてるかな?
私が居なくなって少しでも心配してくれたかな?
……………………こわい。
瀬良先生に「自信を持っていい」って言われたけど、やっぱり…怖いよ。
私がハイツの下で立ち止まっていると、
「なに?ビビってんの?」
瀬良先生が意地悪そうに笑いながら言った。
「べ、別にビビってなんていませんっ///」
「クク…じゃ、早く行こうぜ」
私は瀬良先生に背中を押されて階段をどんどん上がっていく。
二〇三号室。
久しぶりに帰ってきた私の家。
ママはアイツと別れてくれてるのかな?
…….今日は瀬良先生が居てくれるから、もし、アイツが居たとしても平気だよね?
私は不安になってそっと振り向く。
後ろには瀬良先生がいて、優しく笑いかけてくれた。
きっと、大丈夫だ。
瀬良先生がついてくれてるんだから。
勇気を出して私が玄関のドアノブに手をかけた時、ドアが開いた。
「………マ、マ」
ドアを開けたのは、前より少し痩せたママだった。
「どうぞお入りください」
ママが私の後ろにいる瀬良先生に目線をやってから言う。
「お邪魔します」
ニコッと笑って玄関に入り、さっさと靴を脱ぎ出した瀬良先生。
余りの緊張感のなさに、こっちの緊張感さえ奪われしまう。
あは…なんだか肩の力が抜けたみたい。
私は黙って靴を脱いでリビングへと向かう。
どうやら、アイツは居ないみたいだ。
私が少しホッとしたとき、
「どうぞお掛けになって下さい」
ママが私達を2人掛けソファへ座るように促した。
なんだか、他人扱いのような気がして胸が苦しくなる。
こんな状態で話し合う意味ってあるのかな?
もう、私のことなんてママは他人だと思ってるんじゃないの?
「じゃ、じっくり話しますか」
ニコッと笑った瀬良先生が、ママに向かいの一人掛けソファに座るように言った。
本当、瀬良先生って強引というか、何というか…
いつも瀬良先生のペースに巻き込まれてる様な気がする。
「まずは、藤崎。お前の気持ちを母親にちゃんと伝えろ」
「…え?」
「え?じゃねーよ。人間には言葉ってもんがあるんだ。いくら親子でも言葉に出さなきゃ伝わらないことだってあるんだよ」
そ、そんなこと言われたって…
本心を打ち明けて、受け止めてもらえなかったらと思うと怖くて…。
言えないよ。
「俺がいるだろ?絶対に大丈夫だから、逃げんな」
瀬良先生は私にだけ聞こえるように言って、ぎゅっと手を握ってくれた。
……そうだ。
瀬良先生が側にいてくれてる。
私の事をちゃんと見てくれてるんだ。
…きっと大丈夫。
私は一人じゃない。
瀬良先生が私を支えてくれてるんだから、頑張って伝えなきゃ。
私は、深呼吸をして気持ちを落ち着けてからママの目を見て話し出す。
「ママ…私、ママが彼氏を連れてくる事、ずっと嫌だったの。
初めはママに彼氏が出来ることでママが幸せだったらいいと思ってた。
でも…
だんだん、ママの目には私が映らなくなって…
私の存在が邪魔なんだと思った。
私は、必要ないんだと思った。ママには彼氏が居ればいいんだって…
そう思うと、毎日が苦しくて…
アイツは、なんか…気味が悪いしで、眠れない日がずっと続いてた。
私は、そんな毎日が嫌で怖くて…この家から逃げ出したの」
「ちょっと待って…」
そう言ったママの顔色が、だんだん悪くなっていくのがわかった。
「あの男に何かされたのっ⁈」
突然、立ち上がって私の両肩を掴んだママ。
「だ、大丈夫。瀬良先生が助けてくれたからっ」
「良かった…」
そう言って膝から崩れ落ち、床に座り込んでしまったママ。
「ママっ、大丈夫⁈」
私も床に座り、今度は私がママの両肩を掴んだ。
「ごめんなさい、陽菜。本当にごめんなさい」
肩を震わせて泣き出したママ。
「…ママ?」
「ママがしてきた事は、全部間違っていたのね…」
「どういうこと?」
「….陽菜、ママはずっとあなたは父親を欲しがってると思ってたの」
「え?」
どうして?私、そんなこと一言も言ったことないのに….。
「ママ達が離婚してから、陽菜…父親のことで学校で虐められていたでしょ?」
確かに、離婚したとか父親が居ないとかで虐められたけど、でも、私には大好きなママがいたから…
周りから何を言われようが我慢できた。
「陽菜は昔から我慢強い子だったから、虐められていることなんて全く言ってこなかった。
色んなことを我慢させてるのを分かってたから、ママは陽菜のために新しい父親を探さないとってずっと思ってた。
陽菜に父親を作ってあげるのが一番いい事だと…
確かにパパと離婚したときは、もう生きていけないと思ったわ。
お酒に逃げて余りいい生活を送っていない時に、優しくしてくれる男性が現れてその人の事で頭が一杯になり、陽菜のことを一人にしたことも…
でも、どの男性も私にとって陽菜より大切な人なんて居なかった。
陽菜の為に、付き合った男性を大切にして、早く陽菜にパパをつくってあげたいと思ってた。
なのに、それが全部間違っていたのね…」
うそ……
全部、私の為だったの?
そんなの…全然知らなかった。
「陽菜…ごめんなさい」
ママが涙をポロポロ流しながら、私をぎゅっと抱きしめた。
「…マ、マ」
何年振りかに抱きしめてくれたママから、懐かしい香りがしてきて、昔の優しい大好きなママを思い出す。
「陽菜…愛してる」
そして、ママの口から私が一番欲しかった言葉が放たれた。
ずっと、ずっと、欲しかった言葉…
「…ママ、私も愛してるよ」
この時、ずっと欠落していた何かが、一気に満たされていく感じがしたんだ。
瀬良先生の車を降りて、私はピンク色の二階建てハイツをじっと見上げる。
二週間前、アイツから自分の身を守る為にこの家を出た。
あっという間だったな………
ママは元気にしてるかな?
私が居なくなって少しでも心配してくれたかな?
……………………こわい。
瀬良先生に「自信を持っていい」って言われたけど、やっぱり…怖いよ。
私がハイツの下で立ち止まっていると、
「なに?ビビってんの?」
瀬良先生が意地悪そうに笑いながら言った。
「べ、別にビビってなんていませんっ///」
「クク…じゃ、早く行こうぜ」
私は瀬良先生に背中を押されて階段をどんどん上がっていく。
二〇三号室。
久しぶりに帰ってきた私の家。
ママはアイツと別れてくれてるのかな?
…….今日は瀬良先生が居てくれるから、もし、アイツが居たとしても平気だよね?
私は不安になってそっと振り向く。
後ろには瀬良先生がいて、優しく笑いかけてくれた。
きっと、大丈夫だ。
瀬良先生がついてくれてるんだから。
勇気を出して私が玄関のドアノブに手をかけた時、ドアが開いた。
「………マ、マ」
ドアを開けたのは、前より少し痩せたママだった。
「どうぞお入りください」
ママが私の後ろにいる瀬良先生に目線をやってから言う。
「お邪魔します」
ニコッと笑って玄関に入り、さっさと靴を脱ぎ出した瀬良先生。
余りの緊張感のなさに、こっちの緊張感さえ奪われしまう。
あは…なんだか肩の力が抜けたみたい。
私は黙って靴を脱いでリビングへと向かう。
どうやら、アイツは居ないみたいだ。
私が少しホッとしたとき、
「どうぞお掛けになって下さい」
ママが私達を2人掛けソファへ座るように促した。
なんだか、他人扱いのような気がして胸が苦しくなる。
こんな状態で話し合う意味ってあるのかな?
もう、私のことなんてママは他人だと思ってるんじゃないの?
「じゃ、じっくり話しますか」
ニコッと笑った瀬良先生が、ママに向かいの一人掛けソファに座るように言った。
本当、瀬良先生って強引というか、何というか…
いつも瀬良先生のペースに巻き込まれてる様な気がする。
「まずは、藤崎。お前の気持ちを母親にちゃんと伝えろ」
「…え?」
「え?じゃねーよ。人間には言葉ってもんがあるんだ。いくら親子でも言葉に出さなきゃ伝わらないことだってあるんだよ」
そ、そんなこと言われたって…
本心を打ち明けて、受け止めてもらえなかったらと思うと怖くて…。
言えないよ。
「俺がいるだろ?絶対に大丈夫だから、逃げんな」
瀬良先生は私にだけ聞こえるように言って、ぎゅっと手を握ってくれた。
……そうだ。
瀬良先生が側にいてくれてる。
私の事をちゃんと見てくれてるんだ。
…きっと大丈夫。
私は一人じゃない。
瀬良先生が私を支えてくれてるんだから、頑張って伝えなきゃ。
私は、深呼吸をして気持ちを落ち着けてからママの目を見て話し出す。
「ママ…私、ママが彼氏を連れてくる事、ずっと嫌だったの。
初めはママに彼氏が出来ることでママが幸せだったらいいと思ってた。
でも…
だんだん、ママの目には私が映らなくなって…
私の存在が邪魔なんだと思った。
私は、必要ないんだと思った。ママには彼氏が居ればいいんだって…
そう思うと、毎日が苦しくて…
アイツは、なんか…気味が悪いしで、眠れない日がずっと続いてた。
私は、そんな毎日が嫌で怖くて…この家から逃げ出したの」
「ちょっと待って…」
そう言ったママの顔色が、だんだん悪くなっていくのがわかった。
「あの男に何かされたのっ⁈」
突然、立ち上がって私の両肩を掴んだママ。
「だ、大丈夫。瀬良先生が助けてくれたからっ」
「良かった…」
そう言って膝から崩れ落ち、床に座り込んでしまったママ。
「ママっ、大丈夫⁈」
私も床に座り、今度は私がママの両肩を掴んだ。
「ごめんなさい、陽菜。本当にごめんなさい」
肩を震わせて泣き出したママ。
「…ママ?」
「ママがしてきた事は、全部間違っていたのね…」
「どういうこと?」
「….陽菜、ママはずっとあなたは父親を欲しがってると思ってたの」
「え?」
どうして?私、そんなこと一言も言ったことないのに….。
「ママ達が離婚してから、陽菜…父親のことで学校で虐められていたでしょ?」
確かに、離婚したとか父親が居ないとかで虐められたけど、でも、私には大好きなママがいたから…
周りから何を言われようが我慢できた。
「陽菜は昔から我慢強い子だったから、虐められていることなんて全く言ってこなかった。
色んなことを我慢させてるのを分かってたから、ママは陽菜のために新しい父親を探さないとってずっと思ってた。
陽菜に父親を作ってあげるのが一番いい事だと…
確かにパパと離婚したときは、もう生きていけないと思ったわ。
お酒に逃げて余りいい生活を送っていない時に、優しくしてくれる男性が現れてその人の事で頭が一杯になり、陽菜のことを一人にしたことも…
でも、どの男性も私にとって陽菜より大切な人なんて居なかった。
陽菜の為に、付き合った男性を大切にして、早く陽菜にパパをつくってあげたいと思ってた。
なのに、それが全部間違っていたのね…」
うそ……
全部、私の為だったの?
そんなの…全然知らなかった。
「陽菜…ごめんなさい」
ママが涙をポロポロ流しながら、私をぎゅっと抱きしめた。
「…マ、マ」
何年振りかに抱きしめてくれたママから、懐かしい香りがしてきて、昔の優しい大好きなママを思い出す。
「陽菜…愛してる」
そして、ママの口から私が一番欲しかった言葉が放たれた。
ずっと、ずっと、欲しかった言葉…
「…ママ、私も愛してるよ」
この時、ずっと欠落していた何かが、一気に満たされていく感じがしたんだ。