ハツコイ
*****
「…うっく、、う、っっ」
私は人気の無い非常階段でひとり座り、声を押し殺して泣いていた。
『…くだらねー。好きだの何だのって、教師と生徒の間でそんなのあるわけねーだろ』
瀬良先生の言葉が、何度も何度も頭の中でこだまする。
やっぱり、好きになっちゃいけなかったんだ…
実ることのない恋だとは思っていたけど、心のどこかで期待してた。
頑張れば瀬良先生は振り向いてくれるんじゃないかって…
ちゃんと告白する前にフラれちゃった………
どうしよう…
胸が痛くて、苦しくて、辛い。
諦めたい。
諦めなきゃ。
そう思うのに、瀬良先生のことを想うと胸がきゅぅとなってしまって…
心がまだ瀬良先生のことが好きだって、言うことをきいてくれない。
どうしたらいいの?
私がうずくまっていると、
「あんた、何やってんの?」
ぶっきらぼうな女の子の声がして、私は振り返り見上げる。
すると、ひとりの女の子が綺麗な茶色い髪をなびかせながら、仁王立ちで私のことを見下ろしていた。
私は俯き慌てて涙を拭く。
「へぇ…藤崎さんでも泣くことってあるんだね」
彼女は私の隣に座り、頬杖をつきながらこっちを見た。
「泣いてなんていません」
バレバレなのは分かっているけど、認めたくなくて私は強引な嘘をつく。
「アハッ、藤崎さんって意外と面白いじゃん。強がりな人って私、好きだよ」
彼女はケラケラと笑いながら、私の背中をバンバンと乱暴に叩いた。
「い、痛いです。水沢さん」
「へぇ…私のこと知ってたんだ」
今度はクスッと笑いながら言った水沢さん。
「当たり前です」
だって同じクラスだし、彼女は他の女の子とはちょっと違うような気がしてたから。
彼女、水沢 杏里(みずさわ あんり)は、いつも堂々としていて、誰にも媚びず、常に自分というものを持っている人。
私には彼女がそんな風に見えていたから、クラスの中で唯一、気になる存在だったんだ。
「ねぇ、藤崎さん。私と友達になってくれない?」
「えっ⁉︎」
私は想像もしなかったことを突然言われ、自分の耳を疑う。
「そんなに驚くこと?私はずっと藤崎さんのこと、気になってたんだけど」
水沢さんは私に右手を差し出して、「友達になって?」と綺麗な笑顔で言った。
「……は、い///」
私は高校に入ってから初めての友達に、ドキドキしながら「よろしくお願いします」と差し出された右手に触れる。
「なにっ?藤崎さん赤くなってるじゃんっ。可愛い〜♡」
そう言って水沢さんが、ぎゅぅっと私を抱きしめてきた。
「ちょっ///痛いですっ。水沢さんっ」
「水沢さんなんて嫌だぁ。これからは、杏里って呼んでよね、陽菜っ」
「とりあえずっ、離れて下さいっ///」
「杏里って呼んだら離れてあげるーっ」
「わ、わかりましたよっ///あ…杏里、離れて」
杏里は「よしっ」と満足気に笑い、やっと私を解放してくれた。
「じゃ、友達記念に朝のHRは、ここで一緒にサボろうっ」
そう言って、階段の踊り場に寝転んだ杏里。
「 クスッ…、そうですね。それもいいかも」
私も杏里と同じ様に寝転がる。
さっきまで、辛くてどうしたらいいのか分からなかったのに、杏里が友達になってくれて、なんだか少しだけ元気になってきたなんて私って意外と単純なのかも?
「そういえばさぁ、牧野が陽菜のこと探してたよ」
杏里がクルッと横を向き、私の目をじっと見て言ってきた。
「な、なに///何か付いてる?」
余り人に見つめられることに慣れてない私は、杏里の綺麗な切れ長の瞳に同性なのにドキッとなる。
「あははっ、ホント可愛いな陽菜は。何も付いてないよ。私が聞きたいのは、牧野と何かあったのかってこと」
杏里は思っていた通り、とてもさばけた性格のようで、普通は聞きにくいことをストレートに質問してきた。
………言っちゃっていいのかな?
まだ、友達になったばかりだけど信用して大丈夫かな?
私が黙っていると、
「別に無理に聞こうとは思ってないから、気が向かなかったら言わなくていいよ。クラスでの陽菜の様子を見てたら、なんか…困ってるように見えただけだから」
杏里がニコッと少し寂しそうに笑って言った。
……私のこと気にかけてくれてたんだ。
きっと、杏里なら信用しても大丈夫だよね?
「…実は、、、牧野くんに告白されたんだ///」
「やっぱりかぁ。牧野のヤツ、ずっと陽菜のこと狙ってたもんね。っつーか、やっと告ったのかって感じ」
「し、知ってたの///⁇」
私は恥ずかしくて熱くなっていく顔を両手で覆った。
「普通は気付くでしょ?気付いてなかった陽菜にビックリなくらいだよ。それで?何て返事したの?」
「…あ、返事して、ない」
瀬良先生にフラれた事ばかりに気が行って、牧野くんに返事をするのをすっかり忘れてた。
「マジで⁈それで、牧野が必死に陽菜のこと探してたんだぁ」
「私っ、どうしよう!牧野くんに凄く悪い事しちゃったっ」
私が慌てて立ち上がり階段を何段か下りたとき、
「待て待て、陽菜、落ち着きなよ。今行ったって授業が始まってるし、仕方ないって」
杏里に止められて、私は少し落ち着きを取り戻す。
そうだ、今は授業中だった。
杏里の言う通り、今行っても何もできない。
私は下りた階段をまた上がり、杏里の隣に静かに座った。
「アハハ…陽菜ってば、やっぱ面白い。もっとクールな子だと思ってたよ」
杏里がお腹に手を当てて大声で笑う。
「…思ってたのと違って、嫌、だった?」
「そんなわけないじゃんっ。私は今の陽菜の方が好きだよ」
杏里は優しい笑顔で私の頭を撫でながら言った。
「あ、ありがとう///」
杏里のおかげで、私の心はポカポカと暖かくなっていく。
友達ってこんな感じなんだ…
私はこの日、恋を失った代わりに友達を得ることが出来た。
「…うっく、、う、っっ」
私は人気の無い非常階段でひとり座り、声を押し殺して泣いていた。
『…くだらねー。好きだの何だのって、教師と生徒の間でそんなのあるわけねーだろ』
瀬良先生の言葉が、何度も何度も頭の中でこだまする。
やっぱり、好きになっちゃいけなかったんだ…
実ることのない恋だとは思っていたけど、心のどこかで期待してた。
頑張れば瀬良先生は振り向いてくれるんじゃないかって…
ちゃんと告白する前にフラれちゃった………
どうしよう…
胸が痛くて、苦しくて、辛い。
諦めたい。
諦めなきゃ。
そう思うのに、瀬良先生のことを想うと胸がきゅぅとなってしまって…
心がまだ瀬良先生のことが好きだって、言うことをきいてくれない。
どうしたらいいの?
私がうずくまっていると、
「あんた、何やってんの?」
ぶっきらぼうな女の子の声がして、私は振り返り見上げる。
すると、ひとりの女の子が綺麗な茶色い髪をなびかせながら、仁王立ちで私のことを見下ろしていた。
私は俯き慌てて涙を拭く。
「へぇ…藤崎さんでも泣くことってあるんだね」
彼女は私の隣に座り、頬杖をつきながらこっちを見た。
「泣いてなんていません」
バレバレなのは分かっているけど、認めたくなくて私は強引な嘘をつく。
「アハッ、藤崎さんって意外と面白いじゃん。強がりな人って私、好きだよ」
彼女はケラケラと笑いながら、私の背中をバンバンと乱暴に叩いた。
「い、痛いです。水沢さん」
「へぇ…私のこと知ってたんだ」
今度はクスッと笑いながら言った水沢さん。
「当たり前です」
だって同じクラスだし、彼女は他の女の子とはちょっと違うような気がしてたから。
彼女、水沢 杏里(みずさわ あんり)は、いつも堂々としていて、誰にも媚びず、常に自分というものを持っている人。
私には彼女がそんな風に見えていたから、クラスの中で唯一、気になる存在だったんだ。
「ねぇ、藤崎さん。私と友達になってくれない?」
「えっ⁉︎」
私は想像もしなかったことを突然言われ、自分の耳を疑う。
「そんなに驚くこと?私はずっと藤崎さんのこと、気になってたんだけど」
水沢さんは私に右手を差し出して、「友達になって?」と綺麗な笑顔で言った。
「……は、い///」
私は高校に入ってから初めての友達に、ドキドキしながら「よろしくお願いします」と差し出された右手に触れる。
「なにっ?藤崎さん赤くなってるじゃんっ。可愛い〜♡」
そう言って水沢さんが、ぎゅぅっと私を抱きしめてきた。
「ちょっ///痛いですっ。水沢さんっ」
「水沢さんなんて嫌だぁ。これからは、杏里って呼んでよね、陽菜っ」
「とりあえずっ、離れて下さいっ///」
「杏里って呼んだら離れてあげるーっ」
「わ、わかりましたよっ///あ…杏里、離れて」
杏里は「よしっ」と満足気に笑い、やっと私を解放してくれた。
「じゃ、友達記念に朝のHRは、ここで一緒にサボろうっ」
そう言って、階段の踊り場に寝転んだ杏里。
「 クスッ…、そうですね。それもいいかも」
私も杏里と同じ様に寝転がる。
さっきまで、辛くてどうしたらいいのか分からなかったのに、杏里が友達になってくれて、なんだか少しだけ元気になってきたなんて私って意外と単純なのかも?
「そういえばさぁ、牧野が陽菜のこと探してたよ」
杏里がクルッと横を向き、私の目をじっと見て言ってきた。
「な、なに///何か付いてる?」
余り人に見つめられることに慣れてない私は、杏里の綺麗な切れ長の瞳に同性なのにドキッとなる。
「あははっ、ホント可愛いな陽菜は。何も付いてないよ。私が聞きたいのは、牧野と何かあったのかってこと」
杏里は思っていた通り、とてもさばけた性格のようで、普通は聞きにくいことをストレートに質問してきた。
………言っちゃっていいのかな?
まだ、友達になったばかりだけど信用して大丈夫かな?
私が黙っていると、
「別に無理に聞こうとは思ってないから、気が向かなかったら言わなくていいよ。クラスでの陽菜の様子を見てたら、なんか…困ってるように見えただけだから」
杏里がニコッと少し寂しそうに笑って言った。
……私のこと気にかけてくれてたんだ。
きっと、杏里なら信用しても大丈夫だよね?
「…実は、、、牧野くんに告白されたんだ///」
「やっぱりかぁ。牧野のヤツ、ずっと陽菜のこと狙ってたもんね。っつーか、やっと告ったのかって感じ」
「し、知ってたの///⁇」
私は恥ずかしくて熱くなっていく顔を両手で覆った。
「普通は気付くでしょ?気付いてなかった陽菜にビックリなくらいだよ。それで?何て返事したの?」
「…あ、返事して、ない」
瀬良先生にフラれた事ばかりに気が行って、牧野くんに返事をするのをすっかり忘れてた。
「マジで⁈それで、牧野が必死に陽菜のこと探してたんだぁ」
「私っ、どうしよう!牧野くんに凄く悪い事しちゃったっ」
私が慌てて立ち上がり階段を何段か下りたとき、
「待て待て、陽菜、落ち着きなよ。今行ったって授業が始まってるし、仕方ないって」
杏里に止められて、私は少し落ち着きを取り戻す。
そうだ、今は授業中だった。
杏里の言う通り、今行っても何もできない。
私は下りた階段をまた上がり、杏里の隣に静かに座った。
「アハハ…陽菜ってば、やっぱ面白い。もっとクールな子だと思ってたよ」
杏里がお腹に手を当てて大声で笑う。
「…思ってたのと違って、嫌、だった?」
「そんなわけないじゃんっ。私は今の陽菜の方が好きだよ」
杏里は優しい笑顔で私の頭を撫でながら言った。
「あ、ありがとう///」
杏里のおかげで、私の心はポカポカと暖かくなっていく。
友達ってこんな感じなんだ…
私はこの日、恋を失った代わりに友達を得ることが出来た。