ハツコイ
*****


非常階段から走って教室へ帰ってきたので、私はなんとか朝のSHRに間に合った。

杏里はサボると行ってどこかへ行ってしまったけど…一体どこへ行ったんだろう?

そう思いながら自席に座ると、当然、隣に牧野くんが座っていた。

「おはよ、藤崎さん」

ニッコリと爽やかな笑顔で挨拶をしてくる牧野くん。

どうしていつも通りなの?

あんな画像が出回ってて、私はどんな風に牧野くんに接していいのか分からないのに…

そう思っていたら、担任の先生が教室に入ってきたので、私は牧野くんに挨拶を返せないまま朝のSHRを迎えた。

そういえば、私が教室に入った瞬間、少し騒ついたような気がしたんだけど、気のせいじゃないよね?

皆んなあの画像を見て、きっと私達のことを噂してたんだ。

どうやって、誤解を解けばいいんだろう…。

牧野くんとは付き合ってないのに、付き合ってるなんて噂が瀬良先生の耳に入ってしまったらーーー

なんて…そんなこと聞いても瀬良先生は何とも思わないよね。

瀬良先生にとって私はただの生徒。

大勢の中の一人にしか過ぎないんだもんね。

何を期待してたんだろう…

先生と生徒なんて……あり得ないのに。

ただ、好きでいられるだけでいいと思っていたのに。

瀬良先生が私に優しくする度に、惹かれていって、触れられる度にドキドキして…。

だんだん、それだけじゃ物足りなくなって…

瀬良先生に触れたい。

瀬良先生の心に寄り添いたい。

瀬良先生の気持ちを手に入れたい。

どんどん貪欲になっていく。

「起ー立っ」

気が付けばSHRが終わって号令がかかっていた。

担任の先生が教室を出て行くと直ぐに、牧野くんが私の席の前に立ち、

「ちょっと、いいかな?」

と少し困ったような照れたような、複雑な表情で言った。

「…はい」

教室の皆んなが、そんな私達の会話を聞いてザワザワし始めたが、牧野くんが何も言わずサッと教室を出て行くので、私はそれに黙ってついて行った。

教室を出て階段を下り、多目的ホールを横切って、誰もいない昇降口へ来た。

「あの…さ、藤崎さんは、あの画像…見た?」

「見ました」

「そっか。……これは、一つの、、、提案なんだけど、さ」

何か言いにくいみたいで、牧野くんの歯切れがどんどん悪くなっていく。

「提案?」

「うん、提案」

「何ですか?」

牧野くんは、すぅーと大きく深呼吸してから、

「噂通りに僕達っ、付き合ってることにしないっ///?」

真っ赤な顔でそんな提案をしてきた。

「ーーーえ?」

それって、どういう意味??

私…昨日、断ったよね?

え?付き合ってることにするって言った?

嘘をつくってこと?

「いや、誤解しないで。ちゃんと昨日フラれたことは分かってるよ。
僕が言いたいのは、付き合ってることにしたら、この前みたいに嫌がらせをされることはないんじゃないかと思って…さ」

ああ…なるほど。

牧野くんが私と付き合うことになると、他の女の子達は牧野くんのことを諦めるんじゃないかということね。

「僕の気持ちだったら気にしないで。僕のせいでこれ以上、藤崎さんが嫌な思いをするのが耐えられないんだ」

「いや、でも…」

牧野くんが私の為に言ってくれてるのは分かるけど、やっぱりそんなことは…



「へぇ、藤崎のためねぇ」



えっ⁈

どうしてこんな所にいるの??

何故か誰も居ないはずの昇降口に、白衣を着た瀬良先生の姿があった。

「瀬良先生がどうしてこんな所に居るんですかっ」

牧野くんが私の肩を引き寄せながら言った。

「俺?ただの散歩」

「養護教諭がフラフラしてたらダメじゃないんですか?大人しく保健室に待機しておいて下さい」

そう言った牧野くんの手にぎゅっと力が入る。

「…っつーかさ、その手、離してくんない?」

瀬良先生がグングン私達に近づいてきて、私の肩にある牧野くんの手を無理矢理に外した。

「藤崎の為って言いながら、ただ単にお前がコイツの隣に居たいだけだろ。そんで、他の男をコイツに近づけないようにする為なんじゃねーの?」

今度は瀬良先生に肩を引き寄せられる。

ドキドキと加速していく私の鼓動。

もう嫌だっ!諦めようとしてるのにっ!!

「離してよっ!!」

私は肩にある大きな手を外し、力一杯に瀬良先生の体を押し距離を取った。

「そうやって、好きでもないのに私に触れないでっ」

触れられると、私の身体全体が瀬良先生の事が好きだって言っていうことをきかない。

早く忘れたいっ!

瀬良先生のことなんて、今すぐに忘れてしまいたいよっ!

私は瀬良先生の側にいることが辛くなり、走ってその場から逃げた。



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