ハツコイ

揺れ動く気持ち

*****


あの画像のことがあってから数日が経ち、私と牧野くんとの噂が少し落ち着いてきた。

あの時は、ずっと針のむしろで大変だったけど、牧野くんが「僕の片想いだから」と皆んなの前で言ってくれたから随分と楽になった。

まぁ、まだ牧野くんのファンからは冷たい視線を浴びてるけど、嫌がらせをされることは無くなったんだ。

牧野くんが「藤崎さんに何かしたら僕が許さないから」とファンの子達に言ってくれたというのもあるけど、杏里がいつも私の側で目をギラつかせてくれてるから、それが怖くてファンの子達も嫌がらせを諦めたみたい。

平和な日常が続いてると思ってたんだけど…



『僕が瀬良先生のことを忘れさせてあげる』



そう言ってからの牧野くんには、いつもドキドキさせられっぱなしで…。

今も…………

部室で、私が棚の上にある救急箱を取ろうと背伸びをしていると、

「僕が取ってあげるよ」

背後から耳元で囁かれ、長い腕が伸びてきて救急箱を取ってくれる。

それは、いいんだけど……

「あの…///」

どうして、私を背後から抱きしめるような状態で救急箱を持ってるの?

「藤崎さんて小さくて可愛いね///」

バスケ部のエースである牧野くんは長身で180センチくらいある。

私の身長は160センチだから、決して小さいわけではない。

「ま、牧野くんが大きいだけでしょ。それより、早く離れて///」

「…残念」と言いながら、素直に私のいうことを聞いて離れてくれた。

「前から言おうと思ってたんだけど、最近の牧野くんって距離感がおかしいよ///」

「そう?おかしくないと思うよ。だって、僕は藤崎さんにアプローチ中だから、これくらいは当たり前でしょ?」

「ア、アプローチって…///」

「僕のことをもっと男として意識してもらって、好きになってもらわないといけないからね」

そう言って牧野くんは、ニッコリとお得意の爽やかな笑顔で私を見つめる。

「本当に私、そういうの慣れてないからやめてくれないかな///」

私は牧野くんから視線を逸らして、二歩後ろへ下がる。

「んー…、それはちょっと無理かな」

そんな私を見てクスッと笑った牧野くんは、救急箱をベンチの上に置いて、

「じゃ、部活に戻るね」と言って部室を出て行ってしまった。

私はベンチの上に置かれた救急箱の隣に力無く座る。

はぁぁぁ…と深い溜息が出た。

今、瀬良先生を忘れようと必死で…まだ他の人のことなんて考えられないよ。

…いつになったら、瀬良先生のこと忘れられるんだろう。

毎日、会わないように気を付けてるけど、瀬良先生ってどこに居ても目立つというか…

いつも女子に囲まれてるから、嫌でも目に入るんだよね。

瀬良先生の姿を見てしまうと、やっぱり胸の辺りが落ち着かなくて…

まだ、好きなんだと思い知らされる。

あの人を諦めるにはどうしたらいいの?

ーーーーーー他の人と付き合ってみる?

牧野くんと付き合ったら瀬良先生のこと……

忘れられるかな?

私のことを好きだって言ってくれる牧野くんなら、きっと私のことを大事にしてくれる。

そしたら、きっと私も牧野くんのこと…



好きになれる日が来るのかも知れない




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