ハツコイ

恋の終わり

*****



「え…、、、今なんて言ったの?」



私は信じられない言葉を耳にした。

瀬良先生がーーーなぜ?

「信じたくない気持ちは分かるけど、よく聞いて陽菜」

杏里が私の両肩を強く掴み、真っ直ぐに見つめる。

「瀬良、この学校から出て行くんだって。他校に転勤になったって噂だよ」

「うそ…だって、瀬良先生はこの学校に来てまだ四ヶ月も経ってないのに」

そんなに早く転勤になるなんて考えられない。

きっと、何かあったんだ。

瀬良先生に何かあるとしたらーーー

……私のことだ。

私と付き合ってることがバレたのかも知れないっ。

今すぐ瀬良先生に会って確かめなきゃっ!

「私っ、保健室に行って確かめてくるっ」

杏里にそう告げて、私は急いで保健室へ向かった。

廊下を走りながら私は不安でいっぱいになる。

どうしよう、どうしようっ。

私のせいで、瀬良先生が学校から居なくなるなんて嫌だっ!

離れたくないっ!!





「瀬良先生っ!」





ガラッッと私は勢いよく保健室のドアを開けた。

ゆっくりと落ち着いた様子で振り向いた瀬良先生。

「どうした?藤崎」

瀬良先生は、いつも通りのテンションで応えた。

「瀬良先生っ、転勤になったって本当なのっ。この学校から居なくなっちゃうの?」

私は瀬良先生の両腕を掴み、零れ落ちそうになる涙を必死に堪えながら瀬良先生の返事を待つ。

「あー…、それな。本当だよ」

と笑顔で答えた瀬良先生。

「ーーっ⁈ どうしてそんな風に笑えるのっ、私たち離れ離れになっちゃうんだよ」

寂しいって、悲しいって、そう思ってるのは私だけなの?

「あー……」

瀬良先生は天井を見上げて、少し面倒臭そうな顔をした。

「……どうして?そんな顔をするの?私のせいでこんな事になったから?」

私が瀬良先生に恋をしなければ、私が告白なんてしなければ…良かったの?

私と付き合ったこと…後悔してるの?

「今回のことは、藤崎には無関係だ。ただの転勤だから、お前が心配することなんてねーよ」

瀬良先生は両腕を掴んでいる私の手を、サッと外した。

「…瀬良、先生?」

なに?

なんだか…とても瀬良先生が冷たい。

いつもみたいに優しい目で私を見てくれない。

瀬良先生は、窓際にある腰までの棚に寄りかかり、床をじっと見ながら溜息をつく。

「ちょうどいいや。俺、藤崎に話しがあるんだよね」

ちょっと待って。

この流れって嫌な予感しかしないんだけど。

まさか、そんなこと…無いよね?

でもーーー

「…嫌っ、聞きたくないっ」

私は両耳を手で押さえ、何も聞こえないようにした。

でも、そんな私の抵抗は全く意味がなく、瀬良先生によって簡単に手を耳から離されてしまう。

嫌だっ、嫌だっ、嫌だっっ!!

聞きたくないんだってばっ!

そんな冷たい目で私を見ないでよっ!

私は掴まれた手を必死に振り、この場から逃げようとするが瀬良先生の手はビクともしない。

そしてーーー

ついに、あの言葉が瀬良先生の口から発せられた。




「別れよう」





絶対に聞きたくなかった五文字。

私は力が抜けて膝から崩れ落ちる。

熱くなった目からは止めどなく涙が流れ出した。

いつもなら直ぐに、私の涙を優しくあの大きな手で拭ってくれるのに…

今の瀬良先生は立ったまま、私を見下ろしているだけ。

「…何が、いけなかったの?私のこと、、、嫌いになったの?」

冷たい床に手をつき、ポタポタと落ちていく涙を見ながら私は瀬良先生に聞いた。

「簡単に言えばそういう事だな」

瀬良先生とは思えない、冷たい声に、冷たい言葉。

そんな急に気持ちって変わってしまうものなの?

あんなに私たち幸せだったじゃない。

どうして…

「私…瀬良先生に嫌われること…何かした?」

「別に」

「じゃあ、どうしてっ。真剣に答えてよっ!」

そんな面倒臭そうに言わないでよっ!

私は涙をボロボロと流しながら、瀬良先生を見上げる。

そんな私を見ても瀬良先生は、涼しそうな冷たい綺麗な顔で私にトドメを刺したんだ。




「お前のことは遊びだった」





私は心が割れて粉々になっていくのを感じた。


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