ハツコイ

桜の季節

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「仰げば尊し」が流れる体育館。


胸に花をつけた私たちは、今日、卒業式を迎えた。

瀬良先生がこの学校から居なくなって、もうすぐ二年になる。

どういうわけか、瀬良先生が去ったあと雨宮先生もこの学校から居なくなった。

本当なら瀬良先生に、私が巣立っていく姿を見てもらえるはずだったのに、あんなことになってしまって…。

瀬良先生が突然姿を消したあの日から、私はずっと泣き続けていた。

食事も睡眠もままならず、瀬良先生と会う前の私に戻りつつあった。

でも、ママや杏里、牧野くんもずっと私の側にいて励まし続けてくれた。

そのお陰でなんとか私は立ち直ることができ、今日、無事に卒業式を迎えることが出来たんだ。

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「陽菜っ、一緒に写真撮ろうっ」



卒業式証書を手にした杏里が、ハイテンションで私に抱きついてきた。

「うんっ。どこで撮ろっか?」

「やっぱ、卒業写真と言えばあそこでしょ?」

と言って、私の手を引っ張って校門の方へ走っていく。

杏里は、校門に立て掛けられた「平成30年度 第○期生 卒業式」と大きく書かれた看板の隣に私を連れて来た。

「ど定番でしょ?」

とアハハッと笑う杏里。

「サイコウだねっ」

その辺にいる人にお願いして、私達はカレカノの様に腕を組み、最上級の笑顔で写真を撮ってもらう。

私達がデジカメの画像をチェックしていると、ボロボロになった牧野くんが近づいて来た。

「ありゃー。思ったよりボロボロだね、牧野」

杏里は意地悪そうに笑いながら、牧野くんの肩をバンバンと叩く。

「ど、どうしたの⁈牧野くん」

ネクタイも無いし、シャツもはだけてるし、ブレザーのボタンも無いし。

「ハハ…、なんか女子にいきなり囲まれて追い剥ぎにあっちゃったよ」

はぁ…と溜息を吐きながら、困った顔で答えた牧野くん。

「モテる人って大変だね」

「何言ってんのよ、陽菜だって今日までに何人もの男を振ってきたじゃん」

杏里が私の上に手を乗せて、グリグリと軽く拳を回す。

「あはは。痛いよ、杏里」

私と杏里が楽しそうにじゃれ合っていると、

「藤崎さん、ちょっと話しがあるんだけど…いいかな?」

牧野くんが制服を出来るだけ直し、グチャグチャになっていた髪を整えてから言った。

「え?なに?」

私が首を傾げていると杏里が「いいよ。牧野、頑張れ」と言って私の背中を押す。

「杏里?」

「陽菜、あんたもそろそろ他の男に目を向けてもいいんじゃない?」

「えっ⁈」

「ほらほら、早く牧野の話しを聞いてあげなよ。じゃ、私は少し先で待ってるから話が終わったら祝杯でも挙げに行こう」

そう言って杏里はサッサと先を歩いて行ってしまう。

「ここじゃ何だから…場所変えよっか」

牧野くんが少し照れながら言ったので、私達は誰も居ないバスケ部の部室に移動した。

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「もう、この部室に来ることもないんだね」

私は、誰も居ない部室をぐるりと一周見渡して言った。

「そうだね。僕はいつまでも藤崎さんと一緒にここでバスケがしたかったよ。なんだか、寂しいね」

「私も。初めは家に帰りたくない理由で入ったバスケ部だったけど、最近は部員とも仲良くなって楽しかったんだけどな」

「僕は藤崎さんが他の部員と話してるところを見て、何度もヤキモチを妬いたな」

「え?」

私は驚いてパッと牧野くんを見上げる。

「気づいてなかった?」

優しい目で私を見つめながら言った牧野くん。

なんだか恥ずかしくなって、私は思わず目を逸らしてしまう。

牧野くんの大きな手が伸びてきて、そっと私の手を包み込んだ。



「好きです」



牧野くんは、そう一言だけ言って熱い視線で私を見つめる。

……うそ///

牧野くんが?

私なんかのことを?

「藤崎さんのこと諦めきれなくて、ずっと好きなままで…。僕と付き合ってもらえませんか?」

私のことをずっと好きでいてくれたなんて、すごく嬉しい。

牧野くんは、いつも爽やかな笑顔で私を元気づけてくれた。

ずっと優しく寄り添って私を支えてくれた。

………でも、私の気持ちは、、、

「…ありがとう。でも、ごめんなさい」

涙が出そうになるけど、今、泣くとズルイ気がして涙を必死に堪える。

「…そっか。うん、分かった。何度もゴメンね。気持ちを聞いてくれてありがとう」

ニッコリといつもの爽やかな笑顔で言った牧野くん。

「私の方が、ありがとうだよ。私なんかのこと好きでいてくれてありがとう。ずっと側で支えてくれてありがとう」

我慢していた涙がポロポロと零れてしまう。

私は、慌てて下を向き隠そうとしたけど間に合わなくて…

牧野くんが、ポケットから出したハンカチで涙を拭ってくれる。

「泣かないで…。僕は藤崎さんの笑顔が好きだから、ずっと笑っていて欲しい」

「…う、ん」

私は鼻をぐすぐすとしながら、頑張って牧野くんに笑顔を見せた。

ニコッと笑った牧野くんは、

「君を好きでいた時間は僕の宝物だよ。ありがとう」

と言っておデコに軽くキスをし、静かに部室を出て行った。



ーーー 牧野くん

今までありがとう ーーー

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