ハツコイ
桜の季節
*****
「仰げば尊し」が流れる体育館。
胸に花をつけた私たちは、今日、卒業式を迎えた。
瀬良先生がこの学校から居なくなって、もうすぐ二年になる。
どういうわけか、瀬良先生が去ったあと雨宮先生もこの学校から居なくなった。
本当なら瀬良先生に、私が巣立っていく姿を見てもらえるはずだったのに、あんなことになってしまって…。
瀬良先生が突然姿を消したあの日から、私はずっと泣き続けていた。
食事も睡眠もままならず、瀬良先生と会う前の私に戻りつつあった。
でも、ママや杏里、牧野くんもずっと私の側にいて励まし続けてくれた。
そのお陰でなんとか私は立ち直ることができ、今日、無事に卒業式を迎えることが出来たんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
「陽菜っ、一緒に写真撮ろうっ」
卒業式証書を手にした杏里が、ハイテンションで私に抱きついてきた。
「うんっ。どこで撮ろっか?」
「やっぱ、卒業写真と言えばあそこでしょ?」
と言って、私の手を引っ張って校門の方へ走っていく。
杏里は、校門に立て掛けられた「平成30年度 第○期生 卒業式」と大きく書かれた看板の隣に私を連れて来た。
「ど定番でしょ?」
とアハハッと笑う杏里。
「サイコウだねっ」
その辺にいる人にお願いして、私達はカレカノの様に腕を組み、最上級の笑顔で写真を撮ってもらう。
私達がデジカメの画像をチェックしていると、ボロボロになった牧野くんが近づいて来た。
「ありゃー。思ったよりボロボロだね、牧野」
杏里は意地悪そうに笑いながら、牧野くんの肩をバンバンと叩く。
「ど、どうしたの⁈牧野くん」
ネクタイも無いし、シャツもはだけてるし、ブレザーのボタンも無いし。
「ハハ…、なんか女子にいきなり囲まれて追い剥ぎにあっちゃったよ」
はぁ…と溜息を吐きながら、困った顔で答えた牧野くん。
「モテる人って大変だね」
「何言ってんのよ、陽菜だって今日までに何人もの男を振ってきたじゃん」
杏里が私の上に手を乗せて、グリグリと軽く拳を回す。
「あはは。痛いよ、杏里」
私と杏里が楽しそうにじゃれ合っていると、
「藤崎さん、ちょっと話しがあるんだけど…いいかな?」
牧野くんが制服を出来るだけ直し、グチャグチャになっていた髪を整えてから言った。
「え?なに?」
私が首を傾げていると杏里が「いいよ。牧野、頑張れ」と言って私の背中を押す。
「杏里?」
「陽菜、あんたもそろそろ他の男に目を向けてもいいんじゃない?」
「えっ⁈」
「ほらほら、早く牧野の話しを聞いてあげなよ。じゃ、私は少し先で待ってるから話が終わったら祝杯でも挙げに行こう」
そう言って杏里はサッサと先を歩いて行ってしまう。
「ここじゃ何だから…場所変えよっか」
牧野くんが少し照れながら言ったので、私達は誰も居ないバスケ部の部室に移動した。
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「もう、この部室に来ることもないんだね」
私は、誰も居ない部室をぐるりと一周見渡して言った。
「そうだね。僕はいつまでも藤崎さんと一緒にここでバスケがしたかったよ。なんだか、寂しいね」
「私も。初めは家に帰りたくない理由で入ったバスケ部だったけど、最近は部員とも仲良くなって楽しかったんだけどな」
「僕は藤崎さんが他の部員と話してるところを見て、何度もヤキモチを妬いたな」
「え?」
私は驚いてパッと牧野くんを見上げる。
「気づいてなかった?」
優しい目で私を見つめながら言った牧野くん。
なんだか恥ずかしくなって、私は思わず目を逸らしてしまう。
牧野くんの大きな手が伸びてきて、そっと私の手を包み込んだ。
「好きです」
牧野くんは、そう一言だけ言って熱い視線で私を見つめる。
……うそ///
牧野くんが?
私なんかのことを?
「藤崎さんのこと諦めきれなくて、ずっと好きなままで…。僕と付き合ってもらえませんか?」
私のことをずっと好きでいてくれたなんて、すごく嬉しい。
牧野くんは、いつも爽やかな笑顔で私を元気づけてくれた。
ずっと優しく寄り添って私を支えてくれた。
………でも、私の気持ちは、、、
「…ありがとう。でも、ごめんなさい」
涙が出そうになるけど、今、泣くとズルイ気がして涙を必死に堪える。
「…そっか。うん、分かった。何度もゴメンね。気持ちを聞いてくれてありがとう」
ニッコリといつもの爽やかな笑顔で言った牧野くん。
「私の方が、ありがとうだよ。私なんかのこと好きでいてくれてありがとう。ずっと側で支えてくれてありがとう」
我慢していた涙がポロポロと零れてしまう。
私は、慌てて下を向き隠そうとしたけど間に合わなくて…
牧野くんが、ポケットから出したハンカチで涙を拭ってくれる。
「泣かないで…。僕は藤崎さんの笑顔が好きだから、ずっと笑っていて欲しい」
「…う、ん」
私は鼻をぐすぐすとしながら、頑張って牧野くんに笑顔を見せた。
ニコッと笑った牧野くんは、
「君を好きでいた時間は僕の宝物だよ。ありがとう」
と言っておデコに軽くキスをし、静かに部室を出て行った。
ーーー 牧野くん
今までありがとう ーーー
「仰げば尊し」が流れる体育館。
胸に花をつけた私たちは、今日、卒業式を迎えた。
瀬良先生がこの学校から居なくなって、もうすぐ二年になる。
どういうわけか、瀬良先生が去ったあと雨宮先生もこの学校から居なくなった。
本当なら瀬良先生に、私が巣立っていく姿を見てもらえるはずだったのに、あんなことになってしまって…。
瀬良先生が突然姿を消したあの日から、私はずっと泣き続けていた。
食事も睡眠もままならず、瀬良先生と会う前の私に戻りつつあった。
でも、ママや杏里、牧野くんもずっと私の側にいて励まし続けてくれた。
そのお陰でなんとか私は立ち直ることができ、今日、無事に卒業式を迎えることが出来たんだ。
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「陽菜っ、一緒に写真撮ろうっ」
卒業式証書を手にした杏里が、ハイテンションで私に抱きついてきた。
「うんっ。どこで撮ろっか?」
「やっぱ、卒業写真と言えばあそこでしょ?」
と言って、私の手を引っ張って校門の方へ走っていく。
杏里は、校門に立て掛けられた「平成30年度 第○期生 卒業式」と大きく書かれた看板の隣に私を連れて来た。
「ど定番でしょ?」
とアハハッと笑う杏里。
「サイコウだねっ」
その辺にいる人にお願いして、私達はカレカノの様に腕を組み、最上級の笑顔で写真を撮ってもらう。
私達がデジカメの画像をチェックしていると、ボロボロになった牧野くんが近づいて来た。
「ありゃー。思ったよりボロボロだね、牧野」
杏里は意地悪そうに笑いながら、牧野くんの肩をバンバンと叩く。
「ど、どうしたの⁈牧野くん」
ネクタイも無いし、シャツもはだけてるし、ブレザーのボタンも無いし。
「ハハ…、なんか女子にいきなり囲まれて追い剥ぎにあっちゃったよ」
はぁ…と溜息を吐きながら、困った顔で答えた牧野くん。
「モテる人って大変だね」
「何言ってんのよ、陽菜だって今日までに何人もの男を振ってきたじゃん」
杏里が私の上に手を乗せて、グリグリと軽く拳を回す。
「あはは。痛いよ、杏里」
私と杏里が楽しそうにじゃれ合っていると、
「藤崎さん、ちょっと話しがあるんだけど…いいかな?」
牧野くんが制服を出来るだけ直し、グチャグチャになっていた髪を整えてから言った。
「え?なに?」
私が首を傾げていると杏里が「いいよ。牧野、頑張れ」と言って私の背中を押す。
「杏里?」
「陽菜、あんたもそろそろ他の男に目を向けてもいいんじゃない?」
「えっ⁈」
「ほらほら、早く牧野の話しを聞いてあげなよ。じゃ、私は少し先で待ってるから話が終わったら祝杯でも挙げに行こう」
そう言って杏里はサッサと先を歩いて行ってしまう。
「ここじゃ何だから…場所変えよっか」
牧野くんが少し照れながら言ったので、私達は誰も居ないバスケ部の部室に移動した。
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「もう、この部室に来ることもないんだね」
私は、誰も居ない部室をぐるりと一周見渡して言った。
「そうだね。僕はいつまでも藤崎さんと一緒にここでバスケがしたかったよ。なんだか、寂しいね」
「私も。初めは家に帰りたくない理由で入ったバスケ部だったけど、最近は部員とも仲良くなって楽しかったんだけどな」
「僕は藤崎さんが他の部員と話してるところを見て、何度もヤキモチを妬いたな」
「え?」
私は驚いてパッと牧野くんを見上げる。
「気づいてなかった?」
優しい目で私を見つめながら言った牧野くん。
なんだか恥ずかしくなって、私は思わず目を逸らしてしまう。
牧野くんの大きな手が伸びてきて、そっと私の手を包み込んだ。
「好きです」
牧野くんは、そう一言だけ言って熱い視線で私を見つめる。
……うそ///
牧野くんが?
私なんかのことを?
「藤崎さんのこと諦めきれなくて、ずっと好きなままで…。僕と付き合ってもらえませんか?」
私のことをずっと好きでいてくれたなんて、すごく嬉しい。
牧野くんは、いつも爽やかな笑顔で私を元気づけてくれた。
ずっと優しく寄り添って私を支えてくれた。
………でも、私の気持ちは、、、
「…ありがとう。でも、ごめんなさい」
涙が出そうになるけど、今、泣くとズルイ気がして涙を必死に堪える。
「…そっか。うん、分かった。何度もゴメンね。気持ちを聞いてくれてありがとう」
ニッコリといつもの爽やかな笑顔で言った牧野くん。
「私の方が、ありがとうだよ。私なんかのこと好きでいてくれてありがとう。ずっと側で支えてくれてありがとう」
我慢していた涙がポロポロと零れてしまう。
私は、慌てて下を向き隠そうとしたけど間に合わなくて…
牧野くんが、ポケットから出したハンカチで涙を拭ってくれる。
「泣かないで…。僕は藤崎さんの笑顔が好きだから、ずっと笑っていて欲しい」
「…う、ん」
私は鼻をぐすぐすとしながら、頑張って牧野くんに笑顔を見せた。
ニコッと笑った牧野くんは、
「君を好きでいた時間は僕の宝物だよ。ありがとう」
と言っておデコに軽くキスをし、静かに部室を出て行った。
ーーー 牧野くん
今までありがとう ーーー