ハツコイ
*****



ワイワイと賑やかなお昼休みの教室。



お昼ご飯も食べずに、私はひとり机に突っ伏していた。

なんとか午前中の授業は受けることが出来たけど、体調が悪くて頭がクラクラする。

これは、ちょっとヤバイかも?

我慢せずもっと早くに保健室に行って、寝ておけば良かった。

「藤崎さん、どうしたの?大丈夫?」

優しく声を掛けてきてくれたのは、バスケ部エースの牧野くん。

顔をあげなくてもわかる。

きっとクラスの女子の冷たい視線が、今、私に突き刺さってるはず。

本当に勘弁してよ。

牧野くんには、あんまり話しかけないでもらいたいんだけど。

何度もそう言ってるのに、牧野くんは聞いてくれなくて…。

「牧野くんに構ってもらいたくてあんなことしてるんだよ」

「計算高いよねー」

「そんなんだから、いつも一人なんだよ」

女子の声が周りから聞こえてくる。

小さな声で話してるつもりなんだろうけど、メチャ聞こえてるからっ。

私はゆっくりと机から顔を上げて席を立った。

「放っておいて」

と牧野くんに言ってから静かに教室を出る。

「あんな言い方ないよねー」

「可愛くなーい」

「牧野くんが可哀想」

とか女子の悪口が聞こえてきて、腹が立ったけど無視をして保健室へ向かった。

フラフラしながらも、なんとか保健室へ辿り着きドアを開けると、

「えー、本当に彼女いないのー?」

「ウソでしょ?だって瀬良せんせぇ、イケメンだもん」

「じゃあ、私が彼女に立候補するっ///」

なんてキャピキャピと女子に囲まれている白衣姿の瀬良先生の姿が目に入った。

マジ…うざい。

どうしよう、こんな状況じゃ絶対に眠れない。

私が保健室の扉を閉めようとしたら、

「おい、おい、藤崎。どこ行くつもりだよ」

瀬良先生が扉を押さえ、私の手を掴み保健室へ引っ張り込む。

「どこって、とりあえずここを出るので手を離して下さい」

「は?お前、体調が悪いんだろ?保健室以外のどこに行くって言うんだよ」

「放っておいて下さい」

「バカか、お前?そんな事言ってると、また抱き上げるぞ」

は?なに言ってんの///

そんなの、絶対に嫌だよっ。

「えー、瀬良せんせぇ、放っておいてって言ってるんだから、それでいいじゃん」

と言って、キャピキャピ騒いでた女子達が、ブーブーと面白くなさそうにしている。

「お前ら元気なんだから、お前らの方が出ていけよ」

「えー、つまんなぁい」

「ほら、早く出ていけよ」

瀬良先生はシッシッとキャピキャピ女子達に手を振って、保健室から追い出した。

「で?お前は、また貧血?スゲー顔色悪いけど」

「なんでもいいから、寝かせて」

「…嫌だね」

「は?」

「お前、この手首なに?細すぎだろ。昨日も思ったけど、お前、軽すぎ。ちゃんと飯食ってんの?」

瀬良先生が私の手首を掴みながら言った。

「瀬良先生には関係ない」

「関係あるよ。お前がここの生徒である限りはな」

瀬良先生は私の手首から手を離し、何か自分の鞄をゴソゴソし始めた。

「そこに座れよ」と言って、机の側に置いてあるパイプ椅子を指差す。

私はまだ頭がフラついていたので、素直にパイプ椅子に座った。

コトン…と机に置かれた苺ミルクと焼きそばパン。

「何これ?」

「俺の三時のおやつ。とりあえず、それを食ってから寝ろ」

いや…超アンバランスな組み合わせなんだけど…。

ーーーっていうか…この苺ミルクを瀬良先生が飲むつもりだったの?

この、チャラくて口の悪い瀬良先生が??

「あははっ」

私は、瀬良先生が可愛く「チュー」と苺ミルクを飲んでいる姿を想像して、思わず声に出して笑ってしまった。

「何がおかしんだよ///」

瀬良先生が照れながら、私の頭をクシャクシャとする。

「だって…キャラが違うから」

ダメだ。

笑いすぎて涙が出てきた。

「……………」

え?なんで、瀬良先生は黙ってるの?

もしかして、怒っちゃった?

私は「悪かったかな?」と少し思いながら、瀬良先生を見上げる。

ーーーーーっ///

私はすぐに下を向いて、瀬良先生から視線を逸らした。

だって………

すっごい優しい顔で私のことを見てるんだもん///

「な、何ですか///?」

「お前、ちゃんと笑えるんじゃん。ずっと、そんな顔してろよ」

「そ、そんなの、私の勝手でしょ///」

「まぁ、そうだけど。俺はそっちの藤崎の方が好きだな」

今度は私の頭に手をのせ、すごい至近距離で私の顔を覗き込んでくる。

「近いです///」

そう言って、私は瀬良先生の肩を押して遠ざけた。

「クク…」と意地悪そうに片方の口角を少し上げて笑っている瀬良先生。

………トクン

あれ?

…トクン、トクン、トクン

何これ?

なぜか心拍数が上がって身体が熱くなる。

「…私、もう寝ます」

仕切りに使われているカーテンを勢いよく開け、私はベッドに潜り込んだ。

この時の私はまだ、この落ち着かない気持ちが何なのか気付かなかったんだ。


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