烏丸陽佑のユウウツ
ブー、…。
【陽佑さん!】
何だ…、メールで呼び掛けられてもな…。
【梨薫さんが】
…だから、何だよ。
【部長と一緒に歩いてました】
…。はぁ。今日は何の報告だ。
【ある事だろ?一緒に居るんだろ?】
【でも、そこは気を遣いませんかね】
【どこを歩いてたんだ】
見掛けた場所も状況も全く解らない話だ。どうせ会社だろ?…。
【朝です。朝、廊下を二人で歩いていました】
【だから会社だろ?歩く事もあるだろ】
【一緒に来て一緒に歩いてたんですよ…多分】
…出てくる場所も行き先も同じなんだ。仕方ないんじゃないのか。それをおれが一々納得させて宥めないといけないのか…もう…はぁ。
【元々出勤時間も同じ時間帯に来てたんだろ?だったら、ばらばらに来る必要はないだろ。部長が来る時、一緒に来るだろ。
公になってもいい。誰に何を言われてもいいって、それを望んでいるんじゃないのか?】
部長さんが特にな。一緒に暮らしてるんだっていう既成事実がある。じっくりと外堀から埋めてるのかも知れないじゃないか。
【噂がたってしまいます】
【そうだよ。そうなっていいと思っているからの行動じゃないのか?】
【じゃあ…もう、そういう流れなんですかね…】
【さあ…それは俺に聞かれても解らないさ】
梨薫ちゃんは、一緒に行けばいいじゃないかと言う部長の言葉に、何も気にせず行動しているだけかも知れないが…。
【はっきりフラれたのか?】
【そこは…何も言われてませんけど】
【だったらまだ、そんな話になってないんじゃないのか?梨薫ちゃんだって、部長に決めたのなら黒埼君に言うだろ】
【俺は、元々断られているようなものですから、言ってくれないかも知れないです】
【じゃあ、聞いてみたらいいじゃないか】
【嫌です。そんな事…聞けませんよ】
【聞く権利はあるんじゃないのか?】
【それでも、面と向かってちゃんと聞くのは怖いです】
今の緩〜い関係性が崩れるのが怖いか…楽しくしてるもんな…。
【梨薫ちゃんが言わなくても、部長さんがきっちり言ってくるさ】
【はぁ、そうですよね。俺、部長に宣戦布告してるんだった】
【じゃあ、間違いなく言ってくるはずだ。話があるとか、呼び出されないなら、まだなんじゃないのか?
ヒヤヒヤだな毎日】
【あ、もう…そうですよ…呼ばれたら一巻の終わりですよ】
【死ぬ訳でもあるまいし。
毎朝、二人一緒のところを見る事になっても、まだそれだけの事だって。ま、今はそういう事だろ】
【はい!俺、存在を忘れられないように、仕事で梨薫さんに頼りまくります】
は?そこは、…まあ…フ、黒埼君らしい言い回しか。
【精々フォローを頼むといいさ】
【はい!】
【じゃあ、仕事しろ。遊んでると嫌われるぞ?】
【してます。それに今は外だから解りませんよ】
そうか、そうだよな。しかし、こんな風にちょっとしたことで、事あるごとに連絡して来られてもな…。
俺はあれこれと逐一報告されるみたいに知りたくはないんだ…。
【梨薫ちゃんの事、知らせて来なくていいからな】
今までは会社の事だろうとなんだろうと、余計な情報を耳にする事はなかったんだ。それこそ、知らなくていい事を知らされる事もなかったんだ。それが、今は、なにからなにまで、だからな。
【知りたくないですか?】
【別に】
【解りました】
と言っても何かあったら知らせて来るだろうけどな。ハハハ…はぁ。