五月雨・弐
「ちょっと待って。」
高橋が近付き、フェンスに手を掛ける。
私は後ずさりもできず
フェンスに同じく手を掛けた。
「ここから飛び降りて、あいつは?」
「…………圭吾?」
「知ってるの、あいつ。」
「…………。」
教えてないから、いえない。
高橋も分かったみたいで、溜め息。
高橋はもう一度私の眼を見てこう言った。
「じゃあ皆の気持ちはどうなんだよ?」
「そんなの、分かってるし……。」
「言ってみろよ。」
私は、大きく深呼吸をして高橋を睨んだ。
心の底から吐き出す準備は、整えた。
「私のことなんて誰も愛してくれてないの!!信頼してもいない。なのに、生きる意味あるわけ?偽善者ぶらないでちゃんと言ってみてよ?皆そう、言うだけ言って逃げるの。それが、なんだって嫌なのよ!!」
涙が出てきた。
だって、耐え切れなかった。
圭吾だって、こんな彼女いらない。
ちゃんと自分で思ってるんだよ?
分かってるのに、近づけるはずない。
「……決め付けて逃げてんのは、本当はお前なんじゃねーの?逃げようとしてんじゃんかよ。」
「は……?」
高橋は驚くほど冷静だった。
その顔が怖かった。
その顔が、妙に涙を誘った。
「あんたになんか、分かんない……。」
「わかんねえよ!!」
「!」
「分かるはず、ねえじゃん。お前はお前で、俺は俺だもん。死ぬ理由だって、訳わかんねえよ!」
高橋の目尻が光っていた。
そこに、待ってるのかと思った。
一瞬、安心してしまった。
だから私、フェンスにしがみ付いていた。