いつか羽化する、その日まで

朝から怒涛の展開だった。
あの後そのまま目の前の建物に連れて行かれて、ここが正真正銘の私のインターン先だと告げられた。

何がなんだか分かっていない私に、青スーツ男ー村山さんという名前らしいーは笑いながら言い放ったのだ。


『サイト見たんでしょ? ーー本社の』


私が見た企業サイトに載っていた従業員数は、支社・営業所・関連会社の全てを足しあげた数字のことだったのだ。今いる場所は確かにマナカ商事に違いはないのだが、〝東部第四営業所〟といういくつあるのかも分からない営業所のうちのひとつだった。

とんだ勘違いをしていたことに気付き羞恥のあまり小さくなっていた私に、黒いスーツの彼ー小林さんという名前だったーは優しくフォローしてくれた。


『会社はさ、いかに沢山の人を雇用しているか外部に見栄を張りたいだけなんだよ。各支社の人数を列挙していくより、全体の数字だけ載っていた方がインパクトあるし』


だから、気にするなよ。
そう言われて、恥ずかしかったけれど、嬉しかった。本当に、第一印象通り素敵な人だ。

それなのに。
それなのに!

遮るように私の目の前にスッと現れた青スーツ村山さんは、蕩けそうな甘い顔を見せながらこう言ったのだ。


『改めて、よろしくね。……かわいい名前だね、サナギちゃん』

『な・ぎ・さ、です!』


ーー思い出したら、少し苛々してしまい、私は思いっきりアイスコーヒーを啜った。


ひょっとして、これが噂の〝社会の洗礼〟ってやつですか?!

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