いつか羽化する、その日まで
「村山さん、終わりました」
「おっ、ありがとう。お疲れさま」
宣言通り十分ほどで打ち終えた私は、村山さんに声をかける。返ってきた優しい言葉に内心照れつつも、視線は下げないように気を付けた。
「ところでサナギちゃん、確か手帳持ってたよね? 今もある?」
「手帳ですか? 持ってます、けど」
「ちょっと見せて」
私は、言われるがままバッグから自分の手帳を取り出して村山さんへ渡した。唯一のこだわりが好きな色のカバーというだけの、何の変哲もないただのシステム手帳を。
何が始まるのだろうと心配する私をよそに、村山さんはおもむろにペンを手に取る。
「書いてもいい?」
「えっ? い、いいですけど……」
私が言い終わるか終わらないかのうちに、手帳を開いて何事か書き付け始めた。
ほんの十数秒の後、再び手帳は私の手元に戻される。
「叶えたい目標はね、ちゃんと書いておくといいんだよ」
受け取った手帳をおそるおそる開く。パラパラとめくっていくと最後の、罫線の無いフリーページに、少し癖のある字が踊っていた。ついでに、丸と線だけで掛かれたイラストらしきものも。
〝サナギから蝶へ〟
ーーなんだこれは。
横に添えられたぐにゃぐにゃな落書きのようなものを見て、思わずふふ、と笑いが漏れる。