いつか羽化する、その日まで
Day 302+1 : 私、作戦負けしました。

「はああ、緊張したー」


建物を出ると同時にひゅる、とビル風が頬を撫でる。その度に周りを歩く人々が寒そうにコートの襟元を押さえる。それを他人事のように眺めながら、私は腕にコートをかけたまま大きく息を吐いた。

数歩歩いて振り返れば、大きな大きなオフィスビル。当たり前だがホームページで眺めていたものと全く一緒で、初めてこの目にした時はひっそりと興奮したことを思い出す。


今日は内定式だった。
ーー私は、憧れだったこの会社に就職する。春には、ついに社会人になるのだ。


何も分からないところから始めた私の就職活動が、ようやく終わった。
自己分析、業界研究、インターン、エントリーシート、就職試験……知らないことが多過ぎて途方に暮れていた最初の頃が懐かしい。今ではもう、後輩にレクチャーできるレベルには達しているだろう。

本当に、沢山の人に助けてもらった。

大好きな友達の香織には、大学生活だけでなく就活の相談は全部聞いてもらった。さすが私の就活の師匠である香織は、かなりの会社から内定を貰っていたようだったが、最終的に大手スポーツメーカーへ就職を決めていた。実に、アクティブな香織らしい選択だ。

就職課の神田さんには、講習会や企業説明会などの情報を教えてもらった。昨年のインターンだって神田さんに紹介してもらわなかったらここまで頑張れなかったかもしれない。内定の報告に行ったときの彼女の顔は、嬉しそうでありどこか得意気でもあった。

そして、インターン先のマナカ商事。たった三週間でも、あの日々は私の中に強烈に残っている。本気でここへ就職したいと決意させてしまうほど、私の意識を大きく変えた。営業所の方々には感謝してもしきれないほどだ。

色んな思いが駆け抜けるけれど、一番はやっぱりーー。

< 102 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop