いつか羽化する、その日まで
完全に蚊帳の外にいる私は、急に不安におそわれる。先ほどまでは、奇跡的に村山さんに会えたという驚きと嬉しさで何も考えられなくなっていたというのに、今度は目の前の女性とどんな関係なのか気になって気になって仕方ない。
私の気持ちは、あっちへ行ったりこっちへ行ったりとても忙しくなった。
「たまには甘い言葉のひとつや二つ、言われたいんじゃない? どうせあのカタブツな彼氏サンはそういうことを言ってもくれないだろうからさ」
「う、それは……確かにそうですけど。って、何言わせるんですか! 別に、言って欲しい訳じゃありませんから!」
「ふうん」
ついうっかり、ポロリと本音らしきものが漏れたアサミさんに、村山さんは意地悪そうな笑顔を見せている。……相変わらず人が悪い。
私はと言えば、今の会話の内容を聞いてひとり安堵していた。どうやらアサミさんには村山さんではない彼氏がいて、村山さんとも私が心配するような関係ではなさそうだ。
「ーーサナギちゃん?」
私を振り返った村山さんが、何か言いたそうに囁く。
一連のやりとりを色んな感情で聞いていたせいだろうか。知らないうちに、私は村山さんのスーツの袖を力いっぱい握りしめてしまっていた。何も言わずにじっとその部分を見つめられて初めて、私はハッと気付いた。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて手を降ろしたが、村山さんは私から視線を外してはくれなかった。
「……かわいい」
「は……」
袖をしわくちゃにされたというのに、村山さんはとても嬉しそうな笑顔を向けてくる。
私は呆気にとられた。