いつか羽化する、その日まで
「私に対する〝かわいい〟と全然違うんですけど」
アサミさんにそう指摘されて、村山さんは困ったように頭をかいた。
「そ、そうかなあ」
「そうですよ」
ふふふと笑うアサミさんは、予想通り柔らかい笑顔を見せた。
その時、一段と強い風が吹いた。
私は、思わず身をすくめたアサミさんのある部分に気付き、目が釘付けになる。
彼女が腕にかけていたバッグにぶら下がっている、あれはーー。
「わ、寒……! すみません私、そろそろ戻りますね。ーー帰り、〝気を付けて〟くださいね」
アサミさんはわざわざ私に視線を合わせて最後のフレーズを言ってくれた。私は頷いてお礼を言ったが、村山さんは不満そうだ。
「なんで僕じゃなくて彼女に言うの」
「村山さんが一番危険そうだからです」
間髪入れずに返された言葉に、村山さんは大げさに天を仰いだ。
「ええ?! 僕はいつだって紳士だよ?」
「〝それは羊の皮だから気を付けろ〟って、司(つかさ)さんが言ってました!」
「ひ、ひつじって……」
あの村山さんがやりこめられている様が新鮮で、私は思わず吹き出した。