いつか羽化する、その日まで
借りた席でほんの少しだけ休憩させてもらっていると、小さな会議室の扉が開いて足音と話し声が聞こえてきた。私はその音を聞いて会議が終わったことを知る。
先ほど佐藤さんに聞いた話によると、毎週月曜朝イチはこうして会議を開くのだそうだ。
「立川さん、待たせて悪いね」
近寄ってそう声をかけてくれたのは、この営業所の所長である、中村さんだ。先ほどバタバタと挨拶を済ませた時に軽く自己紹介してくれたのだ。当たり前だけれど社会人は時間厳守で、会議を遅らせる訳にはいかなかったらしい。
「いえっ、大丈夫です!」
慌てて立ち上がるが、どうぞ座って、と椅子に戻されてしまった。頭上から快活な笑い声がする。
「元気があっていいね」
決して馬鹿にしているわけではなく、心からそう思ってくれている笑顔が好意的で、嬉しくなった。中村所長はぐるりと室内を見渡して言った。
「立川さんの席は……そうだなあ、村山くんの隣にしようか」
「えっ」
つい漏れ出てしまった心の声が、部屋に響く。音量はとても小さかった(はずだ)けれど、人数の少ないこの場所では全員の耳に入ったに違いない。私はハッと手を口に当てた。