いつか羽化する、その日まで
そこまで考えたとき、私は偶然見てしまったのだ。
顔は私から見えないようにうまく隠しているけれど、柔らかそうな髪の毛の間から覗いた耳がどんどん赤く染まって、明らかに首の色と離れてしまった瞬間を。
「もしかして村山さん……」
その〝割と高めな可能性〟に気付いてしまった私の頬はどうしようもないほど緩んでいるが、もう構ってはいられない。
「拗ねてるんですか?」
こちらもお返しとばかりに意地悪く言うと、村山さんは私から顔を更に背けるように肘掛けに頬杖を付いた。
「……そりゃ、もちろん」
いつもの余裕溢れる態度からは想像もつかないほどの照れ具合に、驚いた。けれど、それを上回るほど嬉しくて、どうしても口角が上がるのは止められない。
「かわいいところ、あるんですね」
思わず笑いが漏れる。
そっと手を伸ばすと、突然ぎゅっと握られた。
「渚ちゃん、それ以上近付かないで。調子狂って変なことしちゃいそう」
そこにいたのは、確かにいつもの村山さんだ。少し下がった目尻にはからかいの色が見えている。
ーーまだほんの少し、顔が赤いけれど。
「何言って……! 大体、わざわざ私の隣の席を取ったのは村山さんじゃないですか」
「当たり前でしょ。こんなチャンスみすみす逃すつもりないよ?」
「それを言うなら私だって! もう会えないかと思ってたんですから!」
ハッと気付いたときにはもう遅い。
ついインターンの頃と同じように村山さんの挑発に乗ってしまった私は、うっかり口を滑らせてしまった。途端に、私の手をつかんでいた骨ばった手の力が一瞬強くなる。