いつか羽化する、その日まで
(ーーあれ?)
小さな違和感を感じた私はもう一度思いを巡らせる。
昨年キーホルダーの話をした時、小林さんは変に動揺していなかったか。確かそれで私は〝キーホルダーは彼女から貰ったものではないか〟という邪推までしたのだった。
会社では流行っていないのに、たまたま二人の社員が同じものを持っている。
そして、小林さんの彼女は本社にいる。
「ある意味きっかけにはなると思うけど、ね」
何かを含んだ言い方にハッと顔を上げると、意味深に頷かれた。〝皆まで言うな〟ということだろうか。私は、インターンで出会って憧れた人の面影を懐かしく思った。
「……まあ、彼女は誰とでもすぐ話せる人だから心配しなくても大丈夫じゃないかな」
「それは多分、村山さんの方だと思いますけど……」
「えー、そうかな?」
この人は自覚がないのだろうか。初対面でいきなり馴れ馴れしく接してきたことは、忘れられないほど強烈な思い出だというのに。
「そうですよ! あんなに親しくしているから、最初村山さんの彼女さんなのかと思って焦ったんですから」
「僕と、浅見ちゃんが? あはは、ナイナイ。面白いこと言うね」
心底可笑しそうに言われて、思わず顔が熱くなる。これではこちらが意識していたことが丸分かりだ。
……もっとも、それ以前に私の気持ちはとっくに知られていた訳なのだが。
そして、今の村山さんの発言も大いに問題だと思う。つまり言い換えると、アサミさんとは〝ない〟けれど、私とは〝ある〟という訳で……。
込み上げる感情を抑えようとするがどうにもうまくいかず、少し大きな声が出てしまった。
「だ、だって! 下の名前で呼んでましたし、普通はそう思いますよ!」
どれだけ私が不安に思ったことか、と続けようとしたが、きょとんとした表情を見せられて思わず口をつぐむ。
「下の名前? 呼んだことなんてないよ?」
「呼んでたじゃないですか。私、ちゃんと聞いてましたからね」