いつか羽化する、その日まで
再反撃は、相当なダメージを与えることに成功したらしい。それは素直に嬉しいが、私もしっかり返り討ちにあってしまった。まさかすぐに名前を呼ぶとは思いもしなかったのだろう。
村山さんは、私の手から本を奪う。驚いて思わず目が合ってしまった。冗談を言うときのからかいの眼差しとも、心を見透かす探るような視線とも違う。
ただ、まっすぐ見つめられる。
「最初は、からかうとかわいいなって思ってただけだったんだけどなあ。あの短期間で成長していく姿を見ていたら、すっかり夢中になっちゃった」
ーー今後は、僕がからかわれないように気を付けないといけないな。
そう微笑む村山さんに、これまでの思いが溢れ出しそうになってしまう。すんでのところでそれを抑えて、呼吸を整えた。
「村山さん」
「なんだ、呼び方戻っちゃったの?」
そうやっておどけて見せたって、もう十分に分かっている。
私が大好きになった人は、いつも飄々としていてつかみどころがないけれど。人のことをよく見て気にかけてくれる、本当は優しい人なのだ。
「私も……うぬぼれていいんですよね」
「もちろん」
以前、村山さんが手帳に描いてくれた蝶の絵がある。
ーー実は密かに、もう一頭描き足しておいたのだ。今では二頭になった蝶が手帳の中を仲良く飛んでいる。
『叶えたい目標はね、ちゃんと書いておくといいんだよ』
今はまだ、スタートラインに立つ前の頼りない存在だけれど。
ーーこの蝶のように、いつか胸を張って隣を歩けるように頑張りますから。
私は、彼よりもうまく描けた自信のあるその絵を見せようと、そっとバッグに手を伸ばした。
終わり
→→→ super express bonus!!! →→→
「卒論が落ち着いたら、たまごの城に行かない? 次こそはケーキセット半分こしようよ」
「プリンもいいですけど……私、久し振りに担々麺が食べたいです!」
「ぶ……っ」
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