いつか羽化する、その日まで
Day 0 : 私、インターンに応募しました。
「なぎさぁ、どうするの、就活」
三限目の講義が終わった大講堂の中。
よく響く声は、友人でありクラスメートの香織のものだ。
「うーん。どうしようかなあ」
「渚いつもそればっかり。そろそろ真剣に考えなよ。もう私たち三年だよ?」
「……うん、分かってる、けど」
香織は大学の入学式がたまたま隣の席だったという偶然が縁となり、ずっと仲良くしてくれる友人だ。彼女は二年生の頃から就職のことを真剣に考えていたようで、ことあるごとにこうして進捗を尋ねられる。どうやら所属サークルの先輩方から、就職活動の大変さを刷り込まれたことが発端らしい。
「あのね、今! そう、今なの! ライバル達を出し抜いて就活を有利に進められるのは、大学三年の夏だって相場が決まってるんだから!」
「ちょ、ちょっと香織、声が大きいよ……!」
どこぞのテレビCMのような大げさな言い方に、その場に残っていた学生たちが一斉にこっちを見る。興奮すると意図せず大声になってしまう友の口を必死に押さえて、半ば引きずるように大講堂を後にした。香織はもごもご言いながら不満そうに眉根を寄せている。
「もう! お節介かもしれないけれど、私は渚のことが心配なの。備えあれば憂いなしって言うし、お互い頑張ろうよ」
ーー就活かあ。
漠然と、そろそろ真面目に考えないと、とは思っている。秋になれば、誰もが就活を本格化させるはずだから。けれど、何から始めたらいいか全く分からない。
最近は就職活動セミナー開催というお知らせがひっきりなしに回ってくるし、私も参加してみた方がいいのだろうか。
そんな風にぼんやりと考え事をしていたら、ガシッと腕を掴まれた。驚いて我に返ると、目を爛々と輝かせた香織がいる。
「ーーねえ、この後時間あるよね?」
入学当時から仲の良い私たち、もちろんお互いの時間割は熟知している訳で。私の次の時間帯が空き時間であることも、完全に知られている。
「空いてるけど……」
「じゃあ決まり! 就活の大切さについて私がしっかり教えてあげるからね」
「え、今から?」
「もちろん!」
その後学食へと場所を移した私は、やる気に満ち溢れた香織のプチ就職セミナーを日が暮れるまで延々と受講する羽目になってしまった。香織、話が長いよ……。