いつか羽化する、その日まで
カタカタとキーボードを叩く音と冷房の機械音が、二人しかいない室内ではやけに響く。
(ここに村山さんがいたら、賑やかになりそうだけど……)
思わずそんなことを考えてしまいながら、
私は隣を盗み見た。
清潔感のある白いワイシャツの腕が視界に入る。腕捲りした手首には、シルバーのベルトが添っていて……どうやら腕時計はアナログ派のようだ。
「ん? 何か質問?」
突然声をかけられて、びくりと肩が震えてしまった。小林さんは手を止めて動かなくなった私を見て、困っていると勘違いしたようだ。
ーーいや、困ってはいるんですけど!
「えっ、いや、はは。……静かだな、と思いまして」
「ああ……あいつがいないから尚更、だな」
どうやら小林さんも同じことを考えていたようで、笑ってしまった。
「大分捗ったし、少し休憩しようか」
小林さんはそう言いながら、肩に手を乗せて首を動かしている。私もつられて首をぐるぐる回していると、上からおどけた声がした。
「若者がこれくらいで弱音を吐くなよ」
「すみません」