いつか羽化する、その日まで
いつの間にか席を立っていた小林さんが、私の横を通り過ぎた。彼のその言動から思いっきり見られていたことに気付き、恥ずかしさで小さくなる。もしかしたら顔も赤いかもしれない。
なるべく良い印象になるように頑張っていたのに、なかなかうまくいかないものだ。
私は、自分がただのインターン生だということはよく分かっている。学生の私にできることなんて、実際はほとんどなくて。それでもこの営業所の人たちは、何とか私に良い経験をさせようとしてくれている。
ーー応えたいのに、また空回りだ。
「飲める? コーヒー」
小林さんが、カップを二つ持って戻ってきた。
てっきりひとりで休憩しに行ったのだと思っていたので、ぽかんと口を開けたまま見上げてしまった。
右手の黒っぽい大きなマグカップと、左手の、繊細な模様が描かれた〝明らかに来客用〟のカップの差がすごい。
呆気にとられた私の目の前に置かれた来客用カップからは、コーヒーの香りと湯気が漂ってきた。
「ありがとうございます……って、すみません! お手伝いもせずに」
「いいから」