いつか羽化する、その日まで

ふわっとした茶色の髪の毛に、だらしなくならない程度に着崩したシャツ。そしてあのスマイルだ。
そのまま黙っていればさぞや女性からちやほやされるに違いないのに、口を開く度に村山さんの残念なところが目立ってしまう。
そうして外でギャンギャン騒いでいると、小林さんが勢いよく事務所から出てきた。


「頼むからもう少し静かにーー」

「こうも暑くちゃやる気が出ないね。あーあ、誰か僕に〝たまごの城〟の焼きプリンでも買ってきてくれないかなあ!」

(え?!)


注意しかけた小林さんを遮るように村山さんが大袈裟な独り言を叫んだ。小林さんは意表を突かれたようにうっ、と押し黙る。


(もしかして、バレてるー?!)


何故。どうして。
あの日、小林さんと食べ終わったプリンの残骸はしっかり処分した。完璧に隠ぺいできたと思っていたのに、一体どこで気付かれてしまったのだろう。翌日の村山さんからは、気付いたような素振りすら感じられなかったのに。
小林さんに視線を向けると、力なく首を振って見せてきた。何を言っても無駄ということらしい。

村山さんが営業所へ入っていったのを見届けると、私は小林さんの近くに寄ってなるべく小さな声で話しかけた。思わず小声になってしまったのは、やはり後ろめたい気持ちがあったからだ。


「……知られちゃってましたね」

「絶対大丈夫だと思ってたんだけど。あいつの嗅覚、野生並みだからな……」


ーー今日一日、何事もなく無事に過ごせますように。

先ほどの自信はどこへやら。思わずそう祈ってしまう、弱気な自分がいたのだった。

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