いつか羽化する、その日まで

「今の取り次ぎはなかなか良かったね」


いつの間にか通話を終えていた村山さんが、私の対応を褒めてくれた。


「ありがとうございます……」

「お礼を言っているとは思えないくらいテンション低いけど、どうしたの?」


顔を合わせないまま人と話すのが不安だと正直に言うと、村山さんは笑った。


「サナギちゃん、現代っ子だねえ。大丈夫。電話は顔が見えない分、気楽だよ。確かに初めて話すのが電話だったら細かいニュアンスは伝わりにくいけれど、そんなの直接会いに行って言えばいいでしょ」

「え、会いに行くんですか?!」


フットワークの軽さに驚いてまばたきしていると、村山さんはわざとらしく咳払いをする。


「僕、曲がりなりにも営業だからね。ーーもちろん、女の子に対してもマメだよ?」

「……」


いきなり何の話だ。
村山さんはそっと顔を寄せてきて、内緒話をするように囁く。


「試してみる? ……ハマったら抜け出せなくなるかも」

「えっ、遠慮しておきますっ!」


バッと耳を押さえて飛び退く私を見て、村山さんはからからと笑う。

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