いつか羽化する、その日まで
「あはは。それだけ即答する元気があれば、大丈夫」
からかわれたのだと気付き、恥ずかしさと悔しさで体温が急上昇した。
この人は一体何を考えているのだろう。
思わず村山さんをにらんでみるが、彼は全く意に介さないようで頭の後ろに手を組んで何やら思案顔だ。柔らかそうな髪の毛がくしゃりとつぶれる。
「でも……そうだなあ。そろそろ同行もしてみたいよね」
「同行?」
同行とは、話の流れから営業の仕事に付いていくことのようだ。インターンの範疇を超えているのではと不安になるが、村山さんの目は真剣だった。
「見たいでしょ? 僕たちが客先でどんなことをしているのか」
「そうですね……」
所長に聞いてみるね、と軽い調子で言われてしまい、私の頭の中は大混乱に陥った。
ーーこれは私、完全に誘導されましたよね?!
焦る私を横目に、村山さんは仕事に戻る。
「ほら、三コール以内に取って」
タイミング悪くまた電話が鳴り始めてしまい、私は必死で取り次ぎをした。鬼コーチのように指示されて、半ばやけっぱちだった。
ーー〝顔を合わせないと不安だ〟という気持ちが、少しずつ薄れてきていることにも気付かないまま。