いつか羽化する、その日まで
・・・・・

「それでそれで? その後どうなったの?!」

「だから香織、声が大きいって」


しいっ、と指を口の前に持ってきて、香織をたしなめる。香織は自らの手のひらで口元を覆い、もごもごと呟いた。


「ご、ごめん……渚の話が面白くって、つい」

「もう!こっちは真剣に相談してるのに」

「まあまあ渚、落ち着いて」


これでも飲みなよ、と目の前のカップをすすすと私の方へ滑らせてくる。

……いやそれ、私が注文したカフェラテですけど。


しかしこうして平日の夜でも話を聞いてくれる友人は、とてもありがたい存在だ。仕事が終わった私は大学近くのカフェで香織と待ち合わせて、こうしてお互いふかふかのソファー席に沈んでいる訳だ。

〝仕事帰り〟という響き、まるで本当の社会人になったみたい……!


「どうしたの、急にニヤニヤして」


怪訝な顔をする香織に、何でもないとかぶりを振る。
落ち着くために口を付けたカフェラテは、砂糖がよく溶けていて甘かった。


カップのそばに無造作に置かれた、先ほどまで砂糖が入っていた袋を見ていると、小林さんのことを考えずにはいられない。

初めて出社したときに佐藤さんが言っていた〝甘党さん〟とはきっと、いや確実に小林さんのことだ。

確かにプリンを食べた時にいれてもらったコーヒーは苦かった。苦かったけれど、さも当たり前のように二本目の砂糖を投入している彼には本当に驚いた。思わず凝視してしまったほどだ。

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