いつか羽化する、その日まで
(あんなかわいい一面もあるなんて、反則でしょう!)
普段は寡黙で頼りになる小林さんが、まさかの甘党だったと気付いてからは、どうにも落ち着かない。人を見た目で判断してはいけないと思うけれど、あれで美味しそうにプリンを食べていたり、コーヒーに私より多く砂糖を入れていたり。そんな姿を見せつけられて、ときめかない人なんているのだろうか。
「いいなあ。インターンが楽しいなんて、最高じゃない」
香織の言葉で現実に戻された私は、誤解のないように慌てて訂正する。
「楽しいだなんて! 新しいことも増えてきて大変だよ」
村山さんからは、所長の許可が降りたので早速明日から外出してみようと言われている。考えれば考えるほど息が詰まってしまいそうなので、できる限り明日のことは意識の外へ追い出そうと必死なのだった。
「でも、気になる人もできたみたいだし? 思い切って連絡先交換しちゃえば?」
「なっ、何言ってるの!」
「渚、声が大きいよっ」
香織は、仕返しとばかりにしーっと口の前に指を立てて見せた。う、と黙り込む私を笑顔で見つめてくる。
「……たった一週間しか経っていないのに、渚が別人みたいで正直驚いてるよ。もちろんいい意味でね。インターン、やってよかったね」
香織は就活の師匠である前に、大事な友達だ。私のことをずっと心配してくれる、心優しい彼女の瞳は優しい。
「……うん。香織のおかげ。ありがとう」
まっすぐ言われると照れくさくて、私は言葉少なに返した。