いつか羽化する、その日まで
「ううん、私は案内しただけで決めたのは渚じゃない。後はもう少し勇気と自信があれば、うまくいく気がする」
「そうだね。まだ一歩踏み出すのが怖くて……。こんな風じゃ本番の就活に影響しちゃうよね」
香織の言葉に感動して、詰まりながら今後の課題を口にしていると、彼女は私の方に身を乗り出してきた。柔らかい印象を受ける木目調のテーブルが、香織の勢いに負けてガタンと音を立てた。
「違う違う、恋愛の方だよ!」
「え? レンアイ?」
「そう! 私もこれからインターンや説明会で忙しくなっちゃうから、次に会えるのは渚がインターン終わってからだし」
「そうだね……?」
要領を得ないまま返事をする。
次に香織と会う頃には、私のインターンは終了している。それは分かっているが、恋愛と何が関係あるのだろう。
「だから、渚の勇気と自信を楽しみにしてる。本当、連絡先くらい交換しなよ? 次に会うときにどうなったか結果教えてよね」
「ええ?! 冗談でしょ?」
心優しかったはずの香織が、鬼か悪魔に見える。二度も言うなんて、冗談ではない何よりの証拠だ。
〝ちょっと憧れているだけだから〟と何度言っても聞いてくれず、私は途方に暮れた。
ーー強く否定できればいいのだ。
それでも〝恋愛感情なんてない〟と断言できない自分が憎い。
それは、水彩絵の具より淡くてすぐに消えそうなものだけれど。私の胸の中には、確かに小さな炎が頼りなさそうにゆらゆら揺れている。
私はそっと息を吐くと、マドラーでぐるぐるとカップをかき混ぜた。
ーーぬるくなったカフェラテはきっと、苦しくなるほど甘い。