いつか羽化する、その日まで

「な、な……」


口を開けたり閉めたり、混乱し過ぎて訳が分からない。村山さんが突然放ってきた言葉は、それほどまでにものすごい破壊力だった。

何か言わなければ。

黙っていたら怪しまれるに決まっているのに、次の言葉がまるで出てこない。
これでは、私が〝彼女がいるかどうか知りたがるほど〟小林さんに好意があると証明しているようなものだろう。

しかし、村山さんには何も話していないし、今までそんな話題すら出なかったはずだ。どうして今、このタイミングでそんなことを言い出したのか不思議に思った。


……もしかして、半分冗談のつもりだった、とか?


淡い期待を込めてそっと視線を向けると、私にしか聞こえないような声でからかわれた。


「耳まで赤くなっちゃって。かーわいー」


残念ながら冗談ではなさそうだ。
私は、誰にも知られないようにこっそり集めていた宝物が他の人に見つかってしまったような、絶望的な気分になった。

そして、同時に沸き上がったのは怒りの感情だ。自分の気持ちを見透かされるだけでなく、それをあげつらわれてとても悔しい。

ひと言文句を言わねば気が済まなくなった私は、おもむろに立ち上がった。見下ろす形となった村山さんは無言だったが、上目遣いも相まって好戦的な目をしていた。片方の口角も少し上がっている。

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