いつか羽化する、その日まで
『あ、あの……これは一体どうすれば……』
今までに自分なりに調べていた会社訪問とは百八十度違っている。どういう態度で臨んでいいか分からなくなってしまった私は、小林さんに助けを求めようとしたのだ。
ところが、小林さんがくれた助言はたったのひとつ。
『怖がらずに、流れに身を任せてみて』
度胸と自信は簡単に付くものではない。これまでの経験と結果が積み重なって、今の小林さんがいるのだろう。淡々とこなしている普段の彼からは、想像もつかないけれど。
(よし! わ、私も!)
少しでもあやかりたくて、私はおそるおそるティーカップを手にした。……が、カップをよく見ると、有名老舗ブランドの柄であることに気付いてしまった。
(こ、これ、一客数千円はするよね……?)
またカタカタと震え出す私を見て、迎えてくれた男性は楽しそうに笑っていた。
ーーそしてその人が社長だと知らされて、夏なのに氷漬けにでもなったかのように身動きひとつ取れなくなってしまったのだ。
・・・・・
「ああ、田辺さんのところ? あそこはいつもそうだよねえ。美味しいお菓子食べれた?」
あっけらかんと笑う所長と、そうですねと淡々と相槌を打つ小林さんを見て、私は頭がクラクラするのを感じた。
……この世界で生きていくためには、度胸と自信の他に、持って生まれた素質も必要なのかもしれない。