いつか羽化する、その日まで
・・・・・

「昨日はそんなに楽しかったんだ。ふうん」

「……」


隣から独り言のようでそうではない言葉が飛んでくる。細い縫い針でつつかれるようにチクチクと攻撃、いや口撃されており、私は隣を見ることすらできずにいた。

壁に掛かった時計をちらりと確認すると、短針が限りなく〝12〟に近付いていてもうすぐ正午になることを知り、小さく安堵する。

ーー何を聞かれるか分からないし、一旦この場を離れたい……!

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、村山さんはのんびり尋ねてきた。


「サナギちゃん、もうすぐお昼だねえ」

「……そうですね」


カタカタとキーボードを打つ手を止めずに答える。もちろん視線はパソコンのモニターへ向けたままだ。


「僕、今日はラーメンが食べたい気分だなあ」

「へ、へえ」


絶対に何かを企んでいる芝居がかった声を聞いて、びくりと肩が震えた。ギシ、という音と共に村山さんが椅子ごと近付いてきた気配がする。突然の出来事に打ち込みに集中できなくなり、目がモニターを滑っていく。


「サナギちゃんも食べたいよね?」

「いえ、私は……」


コンビニに買いに行きます、と続けようとしたが、パーソナルスペースを思いっきり無視した村山さんの行動のせいで遮られてしまった。パソコンのモニターには影が落ち、耳元が突然温かくなった。


「食、べ、た、い、よね?」

「ひゃあっ!」


どさくさに紛れて、息も吹きかけられたような気がする。囁きの余韻が残る耳を押さえて勢い良く振り向くと、村山さんは腰に手を当てて立っていた。


「よし、決まり。ついでに作戦会議もしよう」

「作戦会議……?」


部屋に誰もいない時を狙っての行動は、確信犯だ。恨めしく思っていると、村山さんは楽しそうに私を促してきた。


「混んじゃうから早く。いやあサナギちゃんの話、楽しみだなあ」


いつの間にか、昼休憩に入ってしまっていた。

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