いつか羽化する、その日まで
「残念、ひと足遅かったか」
ラーメン屋に入ると、前回と同じようにスーツや作業着姿の会社員が多く見られた。相変わらずの盛況ぶりに圧倒されていると、店員さんから声をかけられる。
「すみません、ただ今満席でして。こちらで少々お待ちください」
やはりこの前は運が良かったようだ。二人して通路に用意されていた椅子へ腰掛けると、待ちきれないといった様子で村山さんが話しかけてくる。
「それで、首尾良く聞けた?」
「首尾良くって……」
やはり昨日のことは報告せねばならないらしい。村山さんが何を期待しているのか分からなかったが、私はぽつぽつと昨日の話をした。ラーメン屋の喧騒に負けて、時折聞き返されながら。
話を聞き終えた村山さんは、驚いた表情を見せる。
「え?! あんなに長い時間一緒にいたのに、彼女いるかどうか聞かなかったの?」
「〝聞かなかった〟んじゃなくて、〝聞けなかった〟んですってば!」
「……そんなの一緒でしょ」
私が聞くことを放棄したように受け取られ憤慨したが、村山さんは足を組んで呆れたようにため息を吐いた。
「一緒じゃないですから!」
結果が全てとでも言いたげに告げられると悔しくて、つい強めに言い返してしまう。
「でっ、でも! 結婚はしてないみたいです」
「そりゃそうだよ。いくら僕でもさすがに既婚者相手だったら止めてる」
村山さんの乾いた笑いが辺りに響いたとき、場の空気にそぐわないほど明るい声がかけられた。
「お待たせしました! 二名様、カウンターへどうぞー!」
(ーーだったら、彼女いるかどうか教えてくれればいいのに!)
立ち上がった村山さんの背中を見ながら、私は悪態をついた。