いつか羽化する、その日まで
ちょうど会計を済ませた客がカウンターに座っていた二人連れだったため、入れ替わるように私たちが滑り込む。
間髪入れずに、村山さんは口を開いた。
「決まった?」
「ええと、あの、そのーー」
そうだった。注文を決めておくよう言われていたのに、途中からすっかり忘れてしまっていた。
私が言いよどんでいるうちに、店員さんがてきぱきと水を持ってきてくれる。それが合図と言わんばかりに、村山さんは片手を上げた。
「時間切れ~。というわけで担々麺二つ」
「はーい、担々麺二つ!」
村山さんの注文を伝票に書き付けると、店員さんは足早に戻っていく。
「えっ、あのっ」
勝手に注文するなんてひどい、と目を丸くする私を、村山さんは頬杖をついて眺めている。
「サナギちゃん、社会人になったら色んな場面で決断を迫られるものだよ。ラーメンくらい即決できるようにならないと」
「それはそうかもしれませんけど。もう少し悩みたかったです」
「……悩んだって、どうにもならないこともあるんだよ」
村山さんはそう言うと、コップに口を付けて水を飲む。コン、と置かれたコップの音がやけに耳に残った。
「……」
最後のひと言が、何故かとても重いものに感じられて、私は言い返すことができなかった。