いつか羽化する、その日まで
まだ納得がいかない、と頬を膨らませる私の隣を歩く村山さんは、少しだけゆっくりとした歩調になった。つられて私も速さを緩める。
「さっきは先輩ぶってあんなこと言っちゃったけど」
私の返事など期待していないような小さな声だ。〝さっき〟は一体いつのことかと考えを巡らせていると、不意打ちのようなひと言が飛んできた。
「優柔不断で悩んでるサナギちゃんも、悪くないよ」
「……え」
私の悩みの種を肯定されて、驚きで思わず顔を上げた。目線の先には、溢れんばかりの笑顔。
「今のうちに、いっぱい悩んで試してみて。今しかできないことだからさ」
「……」
それはきっと、就活本には載っていないけれどーー本よりずっと、為になる。
「お、何か今の作戦会議っぽくない?」
「……そうですね」
ーー微かな風が、笑い合う頬を撫でていった。