いつか羽化する、その日まで
Day 10 : 私、意外な一面を知りました。
「おはよ、サナギちゃん。今日は絶好の外回り日和だね」
挨拶をして目が合った瞬間、村山さんは爽やかなスマイルを送ってきた。私が彼のことを全く知らない状態ですれ違っていたのならば、思わず振り返ってしまいそうなほど甘い笑顔だ。
しかし私は困惑したまま、窓の方を見る。
何の因果か、空は今日に限ってどんより曇り空だ。
「えっと……今にも雨が振り出しそうなんですけど……」
現実は、貼りついたその嘘っぽい笑顔のように甘くはない。
彼は一見優しそうに見えるが、小さな意地悪を平気で行う人なのだ。
特に今朝のように、すこぶる機嫌が良く見える日などは要注意。何を仕掛けられるか分かったものではない。
この二週間でそのことを嫌と言うほど思い知った私は、ひきつり笑いを浮かべたまま距離を取ろうと後ずさった。
そんな私の拒否反応に気付いたのか、村山さんは、はあ、と露骨にため息を吐いた。
「ノリが悪いなあ。もっと楽しそうにしてよ、せっかくのデートなんだし」
「でっ……」
デート?!
一体いつの間にそんなことに、とひとり慌てふためいていると、すかさず鋭い声が飛ぶ。
「何がデートだよ」
小林さんの、冷静だが完全に呆れている声を聞いて、これはいつもの冗談だと気付き我に返った。