いつか羽化する、その日まで

……いや、今のはどう考えても冗談だと分かるはずなのに、私はどうして慌てたのだろう。


(平常心、平常心……)


出かける前からこんなに動揺しているようでは、先が思いやられる。私はこっそり深呼吸をした。


今日は先日の小林さんに引き続き、村山さんの外出に同行する日だ。
これから村山さんの担当している東エリアへ一緒に出かけて、普段外でどんな風に仕事をしているのか勉強させて貰うのだ。所長からは、二人の営業スタイルの比較をしてみると面白いよ、とアドバイスを貰っている。


「村山、あんまり羽目を外すなよ」

「分かってますって!」


余程不安なのか、何度も念を押す小林さんの行動がかえって私の不安を煽る。村山さんは、鼻歌交じりに鞄へ荷物を詰め始めた。
私に必要とされるものは特に無かったが、村山さんの真似をしてメモ帳や手帳を鞄へ入れていると、そっと所長が近付いてくる。


「……立川さん。大丈夫だとは思うけど、何かあったらすぐに連絡するんだよ」


本気で心配そうな態度を取られ、私の不安な気持ちは更に追い討ちをかけられることとなった。

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