いつか羽化する、その日まで
気付いたら、ポロッと本音が漏れてしまった。優しそうだった彼の顔が、みるみるうちに意地悪そうな表情に変わる。
「なに? もしかして疑ってるの?」
「あ、いや、えーっと……」
じりじりと距離を詰められて、冷や汗が背中を伝った。
「大学生? 僕、リクスーって純粋な感じがして好きなんだよねえ」
「は、はあ……」
「しかもポニーテールじゃん。ますます好みだなあ」
「え、あの……」
いつの間にか敬語をやめたようで、ギリギリセーフなのかアウトなのか分からないようなことばかりやけにフレンドリーに告げられる。
「ねえ、名前なんて言うの? よかったら今度僕とーー」
「おい」
いきなり豹変したやたらと積極的な彼に怯んだ私が、思わず一歩下がった時だ。
その彼の肩に別の大きな手が置かれた直後、青いスーツの彼はそのまま後ろに思いっきり引っ張られていったのだ。
一体誰が、と顔を上げると、黒いスーツを着た落ち着いた雰囲気の男の人が視界に入った。どうやら彼も同じ建物から出てきたらしい。苛立った口調で青いスーツの彼に言う。
「遅いと思ったら。何やってんだよ」