いつか羽化する、その日まで
「できました……!」
最後の〝上書き保存〟ボタンを押して思わずぐったりと机に突っ伏すと、それまで黙っていた村山さんが私のパソコン画面を覗き込んで頷いた。
「ちょうど一時間だね、お疲れさま」
もっと余裕を持って終わることができると思っていたのに、何だかんだでギリギリまでかかってしまったことが悔しい。
「燃え尽きているところ悪いけど、そろそろ出るよ」
立ち上がった村山さんは笑いを堪えながら、机に引っ付いている私に帰るよう促した。
ーーそうだ、ここは職場だった。
気が抜けて思わず素の自分が出てきてしまったことに気付き、慌てて起き上がりぐしゃぐしゃになった髪の毛を整えた。村山さんはすっかり帰り支度を終えていて、鍵の付いたキーホルダーのリング部分を指にくるくる巻き付けながら、窓や給湯室などの営業所内の戸締まりを確認している。
「パソコン、シャットダウンした?」
「はい」
「カバン持った?」
「はい」
「忘れ物ない?」
「はい」
「よし、じゃあ電気消すよー」
テキパキと後始末を終え、鍵をかける。その手際の良さから、きっといつも小林さんか村山さんのどちらかが最後まで残っているんだろうなと思った。