いつか羽化する、その日まで
「わああ! 焼きプリン!」
一目散にショーケースへ突進した私の後ろから、苦笑混じりの呆れたような声がする。
「そんなにがっつかなくても、プリンは逃げないよ」
「ハッ……!」
大好きなプリンを目の前にしたからか、業務時間外だからなのか、完全にオフモードになってしまった。照れ隠しに咳払いをひとつし、居住まいを正す。
「こうして見ると、サナギちゃんもお年頃の女の子なんだなあ」
「ジロジロ見ないでください」
サッと村山さんに背を向けると、笑われた。
ああもう、調子が狂って恥ずかしい。
村山さんが連れてきてくれたのは、なんと私の大好きなプリンを売っているお店〝たまごの城〟だった。
私の残業代を現物支給すると言い出した彼の提案を頑なに拒んでいたら、『二人きりの〝食事〟でなければよいだろう』という持論を展開されて、車に押し込まれて。
自分から言い出した残業の責任を取ってもらうのは本当に申し訳ない。
だから、決して了承せずに根気よく断ろう。
ーー店に着くまでは確かにそう、思っていたのだが。
私は恨みがましく村山さんを見た。
「村山さん、私が断れないと思ってこのお店にしましたね?」
「さあ、どうだろう」
意味深な笑顔を見せた村山さんは、私を席に座るよう促した。
店舗に隣接されてあるカフェスペースで、食事ではなく〝気軽なデザート〟を奢ってくれるという彼の企みに、まんまとはまってしまったという訳だ。