いつか羽化する、その日まで

キラキラとした照明の下、木材の香りが優しい二人掛けの席に着く。目の前には、柔らかそうな茶色い髪の毛に少し目尻の下がった甘い顔をした白いシャツ姿の男性。


(端から見たら……デートしてるみたいに見えるのかな)


思わずそう思ってしまったことに、慌てた。
よく考えたら私もスーツだし、ただの職場の先輩と後輩にしか見えないはずだと必死に思い直していると、ほどよいタイミングで店員さんがやって来た。
村山さんが、メニューを指さして口を開く。


「僕はこの、プリンとケーキのセットにしようかな」

「わ、私もそれで」


重ねて同じものを頼むと、村山さんは意外そうに言った。


「えー? もっと欲張ってもいいのに」

「大丈夫です!」


ぶるぶると首を振る。お代を払ってくれると知っていて、さすがに高いものを頼むのは憚られる。
そんな私たちの様子を見た店員さんは、くすりと笑ってその場を後にした。


人気店とは言え、さすがに平日の夜は客もまばらだ。デザートを持ち帰る人はぽつぽつといるけれど、軽食とデザート専門のカフェに寄る人は少ない。見渡しても、少し離れたところに数組の客がいるだけだった。
それがかえって、私の緊張感を増幅させる。


(静かで、落ち着かない……!)


何も話していないのに視線を合わせるのも変かなと、少し下へずらそうものなら軽やかに着こなしたシャツの胸元が視界に入ってドギマギしてしまう。
毎日小林さんのこともこうして見ていたのだが、距離があったのでここまで気にならなかった。

つまり、近すぎる。

目のやり場に困った私は、結局また視線をメニュー表へと逆戻りさせた。

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